緊急事態宣言

 新年早々、2度目となる緊急事態宣言が2月7日までの期間、首都圏の1都3県に発令されました。しかしその後も、収束にめどは立たず、緊急事態宣言の地域は11都府県に拡大されました。今後も追加される可能性があるという話もあります。

 確かに、緊急事態宣言(以下、宣言)後は、街を歩く人が多少減ったような感はあります。しかし一方で、「人の動きや人手はあまり押さえられていない」という報道もよく耳にします。

「長引くコロナ対策に慣れてしまった」
「若い人の間では『かかっても重症化しにくいだろう』という楽観的な見方が広がっている」
「仕事を休めない」

 ・・・そんな理由をよく聞きます。

 社会、いや、世界全体が新型コロナ・ウィルスに振り回されたこの1年。その全体を振り返って、つくづく感じるのは「正義を振りかざして他者を攻撃する」人が増えたということです。

 ベストセラーにもなった脳科学者の中野信子さん著書『人は、なぜ他人を許せないのか?』でも「正義中毒」という言葉が話題になりました。

「テラスハウス」事件

 思い出されるのは、フジテレビのリアリティー番組「テラスハウス」に出演し、視聴者から誹謗中傷を受けた女子プロレスラーの木村花さんが、享年22歳という若さで自殺した事件です。

 つい最近、警視庁が「ツイッターで中傷する投稿を繰り返した」として、20代男性を書類送検する方針を固めたとの記事を読みました。
男性は5月中旬ごろ、木村さんのツイッターの投稿に「生きてる価値あるのかね」「ねぇねぇ。いつ死ぬの?」などと匿名で複数回書き込み、侮辱罪の容疑がもたれているそうです。

マスメディアの「正義中毒」

 ところが今も、視聴率稼ぎのため、悪感情をあおったテレビ局の責任はいまだ問われません。弱い者を利用して、都合の悪いときはほおかむりを決め込む。まるでどこかの政治家のようです。

 たとえ少数派となったとしても権力者を監視し、弱者を代弁するーーそんな「真の正義」たるジャーナリズムの役割を昨今のメディアはほとんど果たしていないような気がします。
 それどころか、大多数と一体化して決して反撃できない者をなぶり者にし、徹底的に避難しているというのが現状ではないでしょうか。

 そんなマスメディアの「正義中毒」を感じたのが、お笑いコンビ「アンジャッシュ」の渡部建さんが複数の女性と性的関係を持っていたという一件です。

理解に苦しむ

 記者会見時の「渡部さんにとって多目的トイレとはどんな場所ですか?」というメディアからの質問には、本当に吐き気がしました。「自分は正しい」というナルシスティックな思い上がりが、プンプンに匂っていました。

 複数の女性と関係を持つことがいいことだとは言いません。報道されているように、相手の女性を軽んじた扱いをしたのだとしたら、それも許されないでしょう。

 しかし、妻子がおり、芸能人という注目を集める立場にいながら、こうした行為が止められなかった彼の“病”には、それなりの理由や不安があるはずです。その事情も知らない者が一方的に責める行為は、たんなるいじめです。

 そもそも、夫婦関係、男女関係のことをどうして他人が「正しいの」「間違っているの」と声高に叫べるのかも、理解に苦しみます。

今やコロナに感染した方々までが対象に

 こうした「正義中毒」は、今やコロナに感染した方々やその家族、医療従事者にまで向けられています。

 どんなに用心していたって感染するときは感染します。それは一個人が対策を怠ったかとか、規制や自粛を守ったかという道徳の問題ではなく、政治や行政の感染症対策の問題です。

 そんな冷静な判断もできず、欲求不満解消のために安全な場所から弱い立場の者を攻撃し、正義を気取った気持ちでいる。

 ーー来年こそは、こうした「正義中毒」に振り回されない1年になりますように。

在宅イライラ

 一斉休校の遅れを取り戻すため、夏休みが短縮された一方、文化祭や体育祭などのイベントはほぼ中止、もしくは省略化されまた。
 毎日にメリハリは無く、楽しみもない。それなのに、「勉強だけはしろ」と言われるのですから、子どもたちが息切れを起こしても不思議はありません。

 親が家にいる時間が増えたことも、良かったのか悪かったのか。「家族団らんが増えた」という声も聞きましたが、そんないい家族ばかりではないでしょう。

 仕事を失って経済的に困窮したり、テレワークで「家が職場」になったため、家族にもその環境に適応するよう強いたり、顔を合わせる時間が増えた分だけ夫婦間、家族間の諍いが増えた家族も少なくはなさそうです。

テレビゲーム

 国立成育医療研究センターが行っている「コロナ×こどもアンケート」の第3回目の結果報告書が発表されました。
 全国の子ども2,111名、保護者8,565名、計10,676名から回答があった第3回目の報告の主な内容は以下のようなものです。

①(勉強以外で)テレビやスマホ、ゲームなどを見る時間が1日2時間以上のこどもは42%で、2020年1月と比べて41%が増えた。
②直近一週間で学校に行きたくないことが「ときどき」あったのは19%、「たいてい」が5%、「いつも」が7%。
③「家族が、コロナに関連して家での生活を変える理由をわかりやすく教えてくれるか」への回答は、「全くない」が10%、「少しだけ」が12%。
④「教師がコロナによる生活の変化に関連した考えを(あなたが)話せるように、質問したり確かめたりしてくれるか」への回答は、「全くない」が10%、「少しだけ」が12%。
⑤何らかのストレス反応がみられたこどもは、全体の73%。

 もちろん、虐待はあってはならないことです。しかし、親との分離は子どもの人格形成に大きな影を落とします。容易に引き離すことは許されません。

 虐待や親の精神疾患などの問題で、親子分離せざるを得ない状況があったとしても、重視すべきは親との再統合です。虐待親であるならば、なぜその親は虐待してしまうのか、どういう援助があれば親は変わることができるのかなどを明らかにすべきです。

 どうしても子どもを世話できない親であるならば、一緒に暮らすことは無理でも頻繁な親子の交流をどう保障するのかを考えなければなりません。

乳児

「『乳児に虐待』児相が誤認→両親1年3ヶ月別離」(『東京新聞』20年10月16日)という記事を読みました。

 この記事によると、兵庫県明石市で2018年に「子どもの右腕のらせん骨折は虐待」として、当時生後2ヶ月の子どもが児童相談所に一時保護されることになり、その後、1年3ヶ月もの間、乳児院で過ごしました。
 明石市長は、「大切な期間に長期にわたり、親子の時間を奪ってしまい申し訳ない」と謝罪したそうです。

「愛」という名のやさしい暴力

 扶桑社より、『「愛」という名のやさしい暴力』が出版されました。『すべての罪悪感は無用です』に続く、精神科医・斎藤学先生の名言集&その解説の第二弾です。

『罪悪感は無用です』が、機能不全家族で育った人が楽に生きられるようになるための指南本のような要素が強かったのに対し、『「愛」という名のやさしい暴力』は主に共依存を中心とする「家族の『「愛」という名のやさしい暴力』問題」、「女らしさ」や「男らしさ」などの「らしさの病」に関する名言が多くなっています。

不況

 閉塞した社会、お互いの様子をうかがいあう監視社会では、人は不満やねたみをため込みやすくなります。経済不安が加われば、その状況は加速します。

 アベノミクスの失敗、コロナの影響で雇用を喪失する人が急増しました。2020年に旧廃業や解散に追い込まれる企業は全国で5万件を超える可能性があり、10数万人の雇用が失われるおそれがあるそうです(『東京新聞』2020年7月26日)。

 そんな社会で人々は、常にスケープゴートを必要とします。SNSが発達した昨今、対象さえ見つかれば鬱憤をぶつける攻撃は容易です。自分は安全な場所にいて、匿名のまま、対象を死に追い込むまで攻撃しても、だれからも責められません。

 フジテレビ『テラスハウス』の元出演者で、SNS上での誹謗中傷を苦に自殺した木村花さんを思い出していただければすぐにわかるでしょう。

防犯カメラ「子どもが危ない」というかけ声の下、街のあちこちに監視カメラも設置されました。

 いつの間にかそれは「子どもが被害に遭うのを防ぐ」という意味合いよりも、「子どもが非行に走るのを防ぐ」という目的の方が強くなっていったような気がします。
 平たく言えば、「問題行動を起こしたり、社会の在り方に反抗する子どもをいち早く選別し、排除ないし矯正する」ということです。

 街の「安全マップ」がつくられることで、地域に「危険な場所」が生まれました。不審者情報を流すことで、「他の人と違う」人が目に付くようになり、高い塀に囲まれた風通しの悪い家の中では、何が起こっているのか分かりにくくなりました。

 瞬く間に、異質な者の排除や、みなに同調できない者への糾弾が加速し、セキュリティ関連企業が大もうけする監視社会ができあがりました。

通学

「実態と離れた不安」について考えていて、2006年に政府が発表した「子どもの防犯に関する特別世論調査」を思い出しました。

 この世論調査では、「子どもの犯罪被害の不安」が「ある」との回答はなんと74%! ものすごく高回答です。ところがその理由というのが、明らかな印象論でした。「テレビや新聞で、子どもが巻き込まれる事件が繰り返し報道されるから」が85.9%だったのです。