松葉杖

 この春、足を骨折したとき、私は本当に不便を感じました。都内のわずかな移動でも、そのたびに肩身の狭い思いもしましたし、スーパーでの買い物はとっても憂うつでした(『排除の論理と子どもの気持ち』)。

 なるべく出かける用事や、仕事を削って家に閉じこもっていました。自宅と職場の往復だけでも大変なので、間違っても松葉杖で旅行することなど考えもしませんでした。

「でも南米だったら、旅行できたかもしれない。たとえ松葉杖でも楽しめるかもしれない」
 
 今回の旅行を終えて、私はそんなことを思いました。

ツアーガイド イグアス国立公園のバスツアーのガイドさんも、トイレ休憩などで待たせがちな私たちの事情をすぐに察知してくれました。けれども私たちが気兼ねしないよう、“自然”にサポートしてくれていました。

 たとえば集合時間を過ぎてしまったときには、「写真を撮ってあげましょうか」と声をかけてきました。その後、アルゼンチンの国情について聞きつつバスへ戻ると・・・私と同行人以外は全員着席していました。

 同乗していた観光客たちも鷹揚で、待たされても嫌な顔などしません。それどころか、遅れて戻って行くと、「よく戻って来た!」(たぶんそんなポルトガル語やスペイン語)と口々に叫び、拍手喝采。口笛を吹きながら大歓迎したりするのです。

マチュピチュ遺跡に住むチンチラ これこそがまさに「ホスピタリティだ!」と思いました。

 ちなみに、形や行動などで示す「マナー」は相手に不快感を与えないための最低限のルール。そこに「心」が加わると、「ホスピタリティ」になるのだそうです(『ホスピタリティの極意』)。

 今回の旅行では、私もそんな南米の人々のホスピタリティにうんと助けられました。

イグアスの滝

 確かにイグアスの滝がある国立公園内は、トレッキング用の遊歩道が整備されています。一部の区間ではトロッコ列車も走っています。

 とはいえ、この国立公園の広さは東京都とほぼ同じくらい。ブラジル側が185,000ヘクタール、アルゼンチン側が65,000ヘクタールもありますから、足腰に自信の無い人、体力が心配な人、障がいがある人にとって、けっこう移動は大変です。
 
 ところが、車いすユーザーの方たちが、いわゆる健常者とまったく同じように観光しているのです。公園内では、公園側が貸し出ししてくれるのか、他では見たことも無い頑丈なアウトドア用? 車いすも、たびたび見かけました。

車椅子

 女優の東ちづるさんのTwitterが炎上したそうです。

 京都旅行中、車いすユーザーと一緒だった東さんが、祇園でタクシーを止め、「車イスを乗せたいからトランクを開けてほしい」と言ったところ、運転手に「車イスは乗せられません」と言われたというのが、ことの発端でした。

 東さんと一緒にいた友人が「お宅の会社の社長さんは友達や。このこと言うたら、あんたエライことになるで」という発言をTwitterに載せたことで、「脅迫ではないのか」、「そもそも介護タクシーを呼ぶべき」などの批判が相次いだのとのこと(『exciteニュース』2019年9月22日)。

スケープゴート

 不満や不安をぶつけるスケープゴートを探し、一時の感情をぶつける。その対象をつるし上げにして黙らせることで安心し、「一件落着」を図る。

 こうした方法は、己の私利私欲を満たすために社会を一定の方向へと動かそうとする人々の“思うつぼ”にはまるだけではありません。危険因子を排除したつもりでいて、実は社会をさらなる危険へとさらしてしまう可能性があります。

不満

 もしかしたら、多くの人々が抱える「自分が依拠しているこの社会の在り方は『正しくない』のではないか」という無意識下に抑圧された不安の現れなのではないでしょうか。

 何しろ私たちは、経済格差の問題や相対的貧困の問題が指摘され、「年金2000万円不足問題」に象徴されるほど、先行きが見えない社会に生きています。

「ワークライフバランス」だとか、「働き方改革」などの目標は掲げられていても、その恩恵に浴せる人はほんの一部です。

 今回の事件で、私が恐ろしく感じたのは、こうした人々の負のエネルギーと、それをあおるマスコミ。そして、マスコミに提供された場を使って、感情のままに容疑者を罵倒する芸能人やそれに類するコメンテーターたちでした。

あおり運転

 2019年8月10日に茨城県の常磐自動車道で起きた「あおり運転事件」が連日、ニュースやワイドショーで取り上げられています。
 容疑者の男性(容疑者)は、「あおり運転」をして車を停止させ、運転手の男性を殴って負傷させた傷害事件として全国に指名手配されました。そして18日、容疑者をかくまったとされる女性とともに茨城県警に逮捕されました。

私も車を運転するので、自分勝手な運転にひやっとさせられたり、割り込まれていらっとした経験は多々あります。今回の容疑者の取った行為が、あおり運転の果てに相手の運転手を何度も殴るなど、身勝手極まりないものであることも明らかです。

 しかしそうは言っても、社会を震撼させるほどの大事件とは言えません。それにも関わらず、なぜこんなにも注目されることになったのでしょうか。

サラブレッド

 2005年に無敗の三冠馬となるなど、中央競馬GⅠで史上最多タイの7勝を挙げたディープインパクトが頸椎骨折のため安楽死となり、7月30日にこの世を去りました。17歳でした。
  
「立てなくなった馬は、安楽死させるしかない」
 
 それは愛馬アサクサ・ショウリを看取った経験がある私にもよく分かっています。

 馬の腸はとても長いため、体を動かせなくなると腸の胎動がすぐに止まってしまいます。そのうえ体が重いので、寝たままだと同じ場所に負荷がかかって内臓が壊死し始めます。いたずらに延命措置をすれば、馬は苦しんで死んでいくことになります。