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『当面の方策』は、「だれよりもいじめる側が悪い」という認識に立って出来上がっており、「弱い者をいじめることは人間として許されない」と強調しました。

当時の文部省職員は、緊急対策のみとなった理由を
「受験競争の弊害など、諸説がいわれているが、原因を追及していたら、中教審で3回の論議は必要。教育の基本論に立ち返るのはやめて、取り急ぎどう防ぐかをまとめた」(『教育新聞』95年3月16日付)
と話しています。

伊吹文部科学大臣や中村教育長の“励まし”を読んで、私が最初に感じたのは

「この人たちは、子どもが置かれている辛い現実を見ようとしたことがあるのか?」

という疑問でした。
1994年11月、愛知県西尾市で当時中学2年生だった大河内清輝君が自殺するという事件が起きました。遺書には、同級生から金銭を要求されたり暴力を受けていたこと、その苦しさを両親にも伝えられず死を選ぶしかなかったこと、などが書かれていました。

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こうした“励まし”のアピールを読んで、みなさんはどう思いますか。

アピールに書かれているようなことができるならば、自殺する子どもなどいるでしょうか。もし「自分を受け止めてくれる」と信じられる人がいれば、子どもは自然に悩みを打ち明けるはずです。「自分は支えられている」と思えるならば、支えてくれている人に、当然、相談するでしょう。

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image061113.jpg 手紙の調査・分析が進み、豊島区(東京都)で投函された可能性が高いとされると、東京都教育委員会の中村正彦教育長も、今月8日に「いじめを許さず、尊い命を守るために」という緊急アピールを行いました。

アピールでは、手紙の差出人である子どもに向けて
「どんなことがあっても自らの命を絶ってはいけません。相談する勇気を持ってください。必ず誰かが受け止めてくれることを信じてください」
と呼びかけています。

image061110.jpg「生まれかわったらディープインパクトの子どもで最強になりたい」

そんな言葉を残して福岡県筑前町の中学2年生の男子生徒(13歳)が自殺したのは先月11日。
以来、北海道滝川市や岐阜県瑞浪市などでも、いじめを物語る遺書を残して小中学生が自殺していたことが分かり、子どもたちのいじめ自殺が大きく取り上げられています。

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image061101.jpg 子どもは、おとなと違って白昼夢を見ます。たとえばスーパーマンに変身し「父に殴られる母」を守ったり、守護神をつくって「怒ってばかりいる母」から自分を守るなど、自分だけの安全な場所で空想にひたることで現実の恐怖を乗り越え、辛い出来事を慰めたりするのです。

そうやって「だれにも侵されない自分の世界」を積み重ね、自分らしい価値観をつくることは、やがて自分の足で立ち、世の中に流されずに生きる土台をつくります。

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次にはじまるのは異質な者の排除です。いつの時代でも、不安が増大すると地域にとけ込めない“弱者”やみんなと同じように振る舞えない“変わり者”が排除されてきました。たとえば外国人やホームレス、精神障害者などと呼ばれる人たちです。今なら、引きこもりの少年などもその対象になるでしょう。

そうした疎外感が新たな加害者を生むことは、昔から言われてきました。今年2月に滋賀県で起きた、付き添いの保護者に二人の園児が殺された事件からも明らかです。

いったん相互監視と疑心暗鬼の悪循環に陥ってしまうと、そこから抜け出すのは容易ではありません。「安全な共同体の復活」を掲げた防犯活動が疑心暗鬼の増幅に一役買ってしまうこともあります。

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過剰な「家の外」での安全対策の裏には、国際競争時代に向けた社会への転換に異論を唱える者を排除しようと目論む国と、セキュリティ産業の活性化を図りたい企業との一致した思惑があります。
このような安全対策は「テロとの戦い」などという名で呼ばれることもあり、9.11以降、全世界に広がり、私たちの日常に少しずつ浸透してきています。

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ところが、児童虐待への取り組みは遅々として進みません。この7月にも福島県で3歳の男の子が虐待死するという痛ましい事件がありましたが、その後も虐待のニュースは絶えることがありせん。

一方、「家の外」での安全対策は急ピッチで進んでいます。国の今年度予算は「子ども安心プロジェクトの新設」に24億円が計上され、地域住民による安全ボランティア「スクールガード」の養成や警察OBによる「スクールガード・リーダー」の拡充が図られました。警察庁による「地域安全安心ステーション」や監視カメラ付きの「スーパー防犯灯」の設置も広がっています。

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image061013.jpg 通常、認知件数は、取り締まりが強化され、報道が増え、世間の関心が集まれば増えるものです。最近の飲酒運転がいい例です。以前から飲酒運転はあったけれど、その取り締まりはずっと少なく、事故が起きても全国版で大きく報道されることはありませんでした。そのため、当然、警察の認知件数は少なく、私たちが気に留めることもあまりなかったのです。

そう考えると、大事件があったにも関わらず、幼女への性犯罪の認知件数が減っているというデータの重みが増します。