感情を失い、経済活動だけを追い求める人びとには、故郷を追われ、家族離散し、希望を失う人びとの悲しみは分かりません。生活に困窮し、苦しむ人びとの姿も見えません。
私たち日本人は3.11で擬似的な体験を含め、多くの喪失体験をしました。
未だに収束の目処も立たない福島第一原発の事故を目の当たりにし、戦後、日本人を突き動かしてきた「経済発展こそが人を幸せにする」という考えは正しくなかったのではないかという、価値観の揺らぎにも遭遇しました。
つまり、人間の自己を支える基本となる価値観や関係性を失うというとても辛い体験をしたのです。
でも、それは私たちの社会が、戦後手に入れた物質的な豊かさと引き替えに手放してきた大切なもの、ひいては人間らしい生き方ができる社会を取り戻すための大きなチャンスでもありました。