とくに経済的に困窮する人が増え、それが「自己責任」として個人に押しつけられることが当たり前になってしまった昨今、「経済的に役に立たないもの」「自分の足で立つことができない者」への差別や悪意をむき出しにする人が増えているように思えます。
生活保護受給者への悪意?
たとえば吉村洋文大阪市長です。
吉村市長は「生活保護費は市財政の15%を占める」「保護費を目当てに大阪に来る人がいる」と、生活保護制度を問題視する発言を続けています(『東京新聞』2018年7月17日)。
『東京新聞』の取材によると、実際に市が負担している保護費と市長が言う金額にはだいぶ開きがあります。
確かに、当初の市の一般会計の総額(1兆7千770億円)に対する生活保護費は一般会計の15.9%(2千823億円)にあたります。しかし、生活保護費はいったん自治体が全額を出すものの、その後、国が国の負担分(四分の三)を自治体に払います。そのため、市が実際に負担する額はかなり低くなります。
同記事に載っている市福祉局総務課の回答では、現実に市が負担しているのは年50億~70億円で4%程度です。
推論から断定
「生活保護目的での転居が多い」との発言についてはどうでしょうか。この元になったのは市と大阪市立大学が行った受給者についての調査。それによると住民登録から1月未満で生活保護を受ける人が突出しているという結果が出ていたそうです。
でも、調査では転居の理由は尋ねていないため、保護費目的だったかどうかはわからず、あくまでの市長の推論になります。
また、同記事に登場する元ケースワーカーは「仕事を求めて来た人が、住民票を移す余裕もないまま職を探す。仕事が見つからず保護を受けるしかなくなり、受給の準備で住民登録をする。登録日の直後に保護を受けるのは何ら不自然ではない」とも話しています。
市長発言は印象操作
こうした状況には触れず、印象操作とも言える発言を重ねる市長。その理由を尋ねたところ「(分析結果は)一ヶ月未満の受給者数が突出しており、市民目線からは疑義があるため、きちっと調査した方がいいと考えた」と回答し、断じた根拠には触れなかったそうです(同紙)。
吉村市長は元衆議院議員で弁護士資格を持つ43歳。競争主義や自己責任を強調する政策を次々と持ち込み、生活保護の「適正化」として独自の政策を打ち出した橋下徹前市長の支援を受けて市長選に臨み、橋下全市長の路線を受け継ぐと表明している人物です。