そして、さらにさらにすごいことに、国連「子どもの権利委員会」の最終所見は、子どもと親や教師との関係が希薄化している原因として、この間、政府がずっと行なってきた(民主党政権になってさらに強化されようとしている)(1)労働の規制緩和や民営化政策などに代表される企業優遇の施策を挙げました。
そんな企業に利益をもたらす施策に多くのお金が使われる一方で、(2)社会保障や教育費をなるべく出さないようにする財政政策が取られてきたこと、(3)保育所や児童養護施設など、子どもに関する施設の最低基準や、子どもに関連する現場で働く人々の労働条件などの最低基準が低下の一途をたどっていること、(4)企業利益を拡大することを最優先課題とするがあまり、子どもへの予算配分が配慮されていないことなどが原因であるとし、(5)こうした施策を背後から操っている財界に対し、政府がまったく規制をかけようとしていないことをも問題視しています。
もちろん、(6)少子化になっても変わらない相変わらず続く高度に競争主義的な教育制度についても見直すよう述べています。
政府の子ども施策は最終所見と逆行
ところが、政権交代を果たした民主党政府がこれから進めようとしている子ども施策には、そんな国連「子どもの権利委員会」の最終所見は反映されていません。それどころか、逆行する内容になっています。
たとえば、この6月に打ち出された「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」(新システム)を見てください。
保護者と保育所運営団体との直接契約の導入、企業参入の促進を図るための最低基準の廃止など、今まで以上に市場開放・民営化を進めるものになっています。
しかもその財源となる拠出金には「本人」(保護者)を含めたうえ使った分だけ負担する応益負担とするなど、「企業に優しく一般市民に厳しい」内容。新しい儲けの場を開拓したい財界が、長年訴えてきた要望に応えるかたちになっています。
こんな新システムができあがれば、有期雇用の臨時アルバイト、派遣や短時間勤務保育者などが増加し、労働条件が悪化の一途をたどっている保育所にさらなるダメージを与えます。何しろ今、公立保育所では42.5%が非正規雇用。企業が設置・運営する保育所では、園長を含めてほぼ100%非正規雇用の園もあるくらいです。
民主党政府が目指す日本の姿は?
子どもは特定のおとなとの継続的で安心できる関係性の中で、「生きる力」のもとになる自己肯定感や共感能力などを育てていくのに、不安定雇用を強いられていては、子どもをいつでも受容し、そのニーズを読み取って応えていくなどということは至難の業になります。
ころころと保育者が変わる環境では、子どもとの間に継続した安定性のある関係など、つくりようがありません。
このような新システムは、国連の最終所見「子どもの福祉や発達に大きなインパクトを与えている企業に対し、政府はきちんと規制すべき」(パラグラフ27、28の『子どもの権利と財界』)との『最終所見』に明らかに反しています。
表面上のとりつきやすさや目先の新しさ、一見「リベラルに見える雰囲気」に目くらましをくうことなく、民主党がどんなアウトラインを描いて、どんな日本を目指して、私たち国民を引っ張って行こうとしているのか。党の代表選挙も近い今、改めて考えてみる必要がありそうです。
※写真は、レマン湖側から見た政府報告書審査会場であるパレ・ウィルソンの全景