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足立区独自の教育「改革」がもたらした学力テスト、そして学校選択性(学区制廃止)、生徒の質と数に合わせた予算配分。その結果として顕著になった学校間・子ども間の競争と序列、生徒の質や数に合わせた予算配分、あきらめる子どもの増加。

そこには、教育というものを「子どもを中心に考える」という姿勢が欠落しています。
そしてそれはそのまま、これから日本全体が進もうとしている教育「改革」の方向性と重なります。

だからこそ、足立区の不正問題が明るみになる前から、多くの人が今年4月に行なわれた全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)に反対の声を挙げたのです。

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実は、この母親の子どもが通う小学校の学力テスト成績はあまり良いほうではありません。そのせいか他校の保護者や教師から「授業も成り立たない困難校に違いない」と誤解されることも多いそうです。
でも、中身はまるで逆。子どもと教師の関係はわりと良く、学級崩壊などもありません。行事が多く、子どもたちも楽しそうに通っています。

「でも最近、校長先生が『学力向上』とよく言うようになって学校の雰囲気が変わって来ました。校長先生は行事を削ってプレテストの時間を確保したいんだと思います。上位校の親に聞くと、その学校は毎月のようにプレテストをして学力テストに備えていると言います。テストでいい点数を取るためには“テスト慣れ”も大事。行事や授業を削ってテスト対策をすれば点数は上がるでしょうね」(母親)

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あきらめる子どもたち

image070820.jpg「下位校の子どもを見ていると『どれだけ早いうちに諦めるか』という感じです。
親は生活に手一杯。教師も、現場の状況を無視した区の教育『改革』に振り回されて子どもを見る余裕がありません。
親身にかかわってくれるおとなに出会うことができず、『支えられて最後までやり遂げた』とか『頑張って何かに取り組んでほめられた』などの経験を持てない子どもが増えました」(足立区の中学校教諭)

こうした子どもたちの多くは、小学校段階で「自分は駄目だ」と諦めているといいます。成功体験を持つことができなかったからです。
「小学校時代の勉強までさかのぼって教えようとしても『もういい』と、やる気になれない子も多い」(足立区の中学校教諭)そうです。

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全体的に見ると、足立区の上位校と下位校の間で保護者の所得格差も顕著になってきています。
生活保護家庭と同程度の所得水準の家庭に給食費や学用品の一部を援助する就学援助制度を受けている家庭の割合が、上位校と下位校ではぜんぜん違うのです。上位校の就学援助率は20%台ですが、下位校では75%を超えている学校もあります。

上位校には、教育熱心で教育のためにお金や時間を多く費やすことができる保護者の子どもが集まりやすくなっています。
一方、下位校には生活が厳しく、片親家庭で昼夜問わずパートタイムなどで働きながらようやく生計を立てている保護者の子どもも少なくありません。
こうした家庭では、子どもの教育や進学のことにまで気を配ることが難しかったりします。

こうしたなか、下位校に入っている中学校では養護学校や定時制高校を第一志望にする子どもたちも出てきました。
私学援助も削られるなかで、公立一本で勝負しなければ進学できない子どもが増えてきたからです。

耐震構造偽造問題や食肉偽装事件など、生活の根幹に関わる不正事件が相次ぐなか、今度は東京都足立区で、区が独自に行なってきた学力テストの不正が話題になっています。

ある小学枝で、あまり成績のよくない特定の子どもの答案を集計から外したり、過去のテスト問題を練習問題として繰り返し行なったり、テスト中に子どもが間違っているところを指差しで教えたりしてきていたことが明らかになったのです。

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子どもの心理的ニーズに応えることが重要

子どもの人格形成に有用なのは、その子どもが「今、必要としていること」(心理的ニーズ)に適切に応える「関わり」です。
身体的虐待などの目に見えやすい虐待よりも、心理的ニーズに応えない子育ての方が子どもより深刻なダメージを与えるとの研究結果もあります(1)身体的虐待、2)ネグレクト、3)心理的ニーズに応えないなど、五つの違う養育パターンの子どもを追跡調査した「Minnesota Mother Child Project」より)。

ところが、教育再生会議の報告は「どういう関わりが子どもの成長にポジティブな影響を与えるのか」についてはまったく触れていません。
「最新の脳科学や社会科学などの知見を踏まえた人格形成を目指す」と謳っているのに、最近の虐待研究やトラウマ研究、それらが脳に与える影響については、まったくと言っていいほど注目していないのです。

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こうした親たちに「こうすべき」との提言を出し、マニュアル化した「子ども対応スキル」を説くことが有効だとはとても思えません。
提言を出されれば反対に「あれもこれもやらなくちゃ」と、親にさらなるプレッシャーや精神的ストレスを与えてしまうことにならうのではないでしょうか。

最近、長く子育て支援をしてきている方にこんな話を聞きました。

「今のお母さんは本当にまじめ。子どもがだれかに迷惑をかけないか、自分がきちんとした親をやれているかと心配ばかり。だからどうしても、子どもを制約することが多くなる。子どもにかけるセリフでいちばん多いのが『ダメ』という言葉」

確かに公園や電車の中で会うお母さんたちも、よく子どもを注意しています。「裸足になっちゃダメ」「他の人に迷惑をかけちゃダメ」「大きな声を出しちゃダメ」・・・。

でも、お母さんたちの気持ちも分かります。子育て中の友人が言っていました。

「だって日本社会って子どもや子ども連れに優しくない。子どもにもおとなと同じように振る舞うことを要求するでしょう?」(続く…

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人格形成についても同様です。
第二次報告は、徳育や自然体験、職業体験を行うことで「命の尊さや自己・他者の理解、自己肯定感、働くことの意義、さらには社会の中で自分の役割を実感できるようになる」としていますが、本当にそうでしょうか?

確かに、自然体験や職業体験は、机にかじりついているよりも視野を広げ、見識を深めてくれることでしょう。「良いこと」と「悪いことを」を教えれば、善悪の区別はつくようになるでしょう。

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「ゆとり教育」の実態を見てみると、その中身は子ども自身が持って生まれた能力を伸ばすことができる本当の「ゆとり教育」にはなっていません。

2005年当時に取材した教育行政学の専門家は、「ゆとり教育」をこんなふうに分析していました。

「日本の『ゆとり教育』とは、公教育費削減を実現するため『少数に厚く、残りの人には最小限にする教育』のこと。でも、そんなふうに言えば国民は賛成しないから、『ゆとり教育』という名前を付けただけ。少数の人だけを優遇する教育制度にしたのだから、全体的な学力が低下するのは当然」

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image070626.jpg 授業内容の厳選(三割削減)も「ゆとり」には結びつきませんでした。
たとえ教科書が薄くなっても受験体制が変わらなければ、子どもに教えなければならない内容は減りません。
それなのに総合学習や学校5日制の導入で授業時間全体が少なくなったのですから、当然「ゆとり」ある授業などできようはずはありません。

その影響は低学年ほど顕著でした。
子どもは磁石で砂鉄を集めて遊んだり、ジュースの量を量ったりするなど、生活に密着した遊びを取り入れた授業の中で、理科や算数の基礎を身につけていきます。ところが、そうした「ゆとり」のある授業ができなくなってしまいました。