チュニジアで始まった反政府デモが、アフリカや中東諸国に広がっています。さらにアジア圏である中国でも、インターネット上で国民が抗議行動を呼びかけ、人権活動家たちが警察の拘束下に置かれる騒ぎになっています(参照)。
エジプトのムバラク大統領が退陣を余儀無くされた後、世界各地のいくつもの報道番組が「なぜエジプトで大規模デモが成功したのか」を取り上げていました。
そんな多くの番組の中で、とく印象に残った発言がありました。
正確な番組名(おそらくアメリカの報道関係者が製作したもの)を残していなかったので不確かな情報になってしまいますが、2月11日夜20時前後にNHKのBSで放送していた討論会でのある識者の発言です。
その識者は、「エジプトで、若者による大規模なデモが起きたのは教育に問題があったからだ」と言ったのです。
なぜ日本の若者はおとなしい?
日本の状況を見ると、その言葉は的を射ているように思います。
中国までやってきた反政府デモの波。果たして、その波が東シナ海を越えて、日本にまで到達すると考えている日本人はどのくらいいるでしょうか。中国同様、だれかがネット上で呼びかけたら、日本でも「現政府を倒そう」という動きが始まるのではないかと思っている人はどうでしょう。
私も、答えは「NO」だと思います。
ではなぜ、日本の若者や労働者層はおとなしいのでしょうか。
反政府デモが広がる国々に比べれば、まだまだ豊かで平和な、住みやすい国だからなのでしょうか。北アフリカや中東のように貧富の差が無いからなのでしょうか。独裁者がおらず、民主主義社会を実現できているからでしょうか。言論統制がないからなのでしょうか。
毎度のことですが、ここでもやっぱり私は「でも、だけど・・・」と、言ってしまいたくなります。
戦争がなくても平和じゃない
確かに戦争や内紛など、武器を使った暴力は日本にはありません。
しかし、「虐待」と呼ばれるものが「身体的虐待だけ」ではないように、戦争も、そうした目に見えやすいものばかりではありません。
ここ13年間、日本では毎年3万人もが自殺しています。つまり10年あまりで40万人に届く人が自ら命を絶っているわけです。
内閣府の 『一人ひとりを包括する社会特命チーム』資料(PDF)によると、日本の自殺率は、世界第6位で、アメリカの2倍、英国やイタリアの3倍と先進国の中でも、最も深刻です。さらに、驚いたことに20代30代の死因の第一位が自殺となっています。
背景には「社会に求められる能力が高く、生産性のある人物しか生き残れない」ラットレースのような「マネー経済戦争」があります。
まるで「自分で金を稼げないヤツは生きている資格が無い」とでも言いたげな自己責任論や能力主義を掲げる社会のストレスは、虐待、DV、老人虐待、子どもの暴力、象徴的な無差別殺傷事件などとして、市民生活を脅かし、私たちの心をむしばんでいます。
戦争がなくても、日本には多くの暴力がはびこっています。たとえ戦争がなくても、日本はけっして平和で豊かな国ではありません。(続く…)