『生き心地の良い町』(9/9)
同書を読んでいると「自己効力感」よりも、むしろ「自己肯定感」の高さが町民気質を左右しているように思えてなりません。
たとえば、「ありのままの自分に価値がある」と思えるからこそ、他者の価値観や支配に左右されず、きちんと自分を守りながら、自分の価値観に基づいて自律的に世の中を生きていくことができるようになります。
それは海部町の学歴や社会的地位に惑わされることなく、「その人物そのものを見る」という「自殺予防因子ーその二 人物本位主義をつらぬく」に通じるものを感じます。
「ゆるやかにつながる」ことも可能に
また、自己肯定感が高く、「自分は大切」と思える人は、「自分にかけがえのない人生があるように、他人にもかえけがのない人生がある」ことを自然に受け入れられます。
それが、他者を支配したり、規則で縛ったり、義務や負担を課すことなく、お互いのペースやパーソナルスペースをおもんぱかりながらも「自殺予防因子ーその五 ゆるやかにつながる」ということを可能にしているのではないでしょうか。
悲しい現実
もし、海部町の生き心地の良さを保障しているものが「自己肯定感」の高さなのだとしたら、自殺率を下げる方法は明確です。
子どもにおとなの都合や期待を押しつけず、おとなが子どもの思いや願いをちゃんと受け止め、「自分は愛されているんだ」という実感を与え続けてあげること。身近なおとなができなかったときには社会が替わって保障してあげること。
人生の早期に「自己肯定感」を獲得できなかった人がやり直せるような人間関係を用意し、「自己肯定感」を低める要因を減らすことです。
でも、それが思いの外、難しいのでしょう。
若年層(15~39歳)の死因のトップが自殺で、その数字は先進7カ国のなかでトップという事実(『自殺対策白書(2014年版)』が、「自己肯定感」を高めることなどまったくできていない悲しい日本の現実を物語っています。