「社会の問題」としての自殺(1/4)

2019年5月29日

image060710.jpg 先月15日に自殺対策基本法が成立しました。自殺の防止はもちろんのこと、自殺してしまった人の遺族へのケアやだれもが生き甲斐を持って暮らせる社会の実現を目的とし、年内に施行されることになっています。
この法律のいちばんの特徴は、自殺を「社会の問題」と位置づけたことです。今まで自殺は「当人が弱いから」など「個人の問題」とされてきましたが、「自殺の背景には様々な社会的要因がある」(基本理念)として、社会的な取り組みを行うことを明言したのです。

ところで先日、「過酷な業務からうつ病を発症し、働けなくけなくなったのに解雇されたのはおかしい」と会社を訴えている重光由美さん(本人の希望により本名にしています)とお会いしました。

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某大手電機メーカーに勤務していた重光さんが「抑うつ状態」の診断を受けたのは液晶生産ラインの立ち上げにリーダーとして従事していたときでした。朝8時前から深夜1時頃まで及ぶ勤務、休日出勤、ノルマ、度重なる会議やトラブルの解決・・・。重光さんは定期的に通院する時間さえ取れなかったそうです。
そんな過剰労働の原因は、コストダウンのための人員と開発期間の削減でした。いずれもそれまでの半分ほどに削られてしまったのです。

この会社では、重光さんが休職した前後に同じ業務に関わっていた同僚ふたりが自殺しています。社内では、ひとりは皇居の堀に飛び込み、もうひとりは富士樹海で首を吊ったとの噂が広がっています。
重光さんによると、そのうちのひとりは自宅で包丁を振り回すなど精神的にかなり参っていたということです。見かねた奥さんが上司に仕事を変えてくれるよう頼んでも「ワガママだ」と受け入れてもらえませんでした。後に会社は、「家族の意向で事故死として処理します」と発表したと言います。

もうひとりについては、会社が事実を隠そうとしているため、詳しいことは分かっていません。何しろ、一般社員は社内回覧の訃報欄でその死を知ったほどです。
重光さんは「職場の人間はだれも、ふたりがそこまで追いつめられていたとは知りませんでした。おそらく直属の上司くらいしか知らなかったと思います。みんな業務に追われ、自分のことで精一杯。他の人に気を配る余裕なんてありません。私が体調を崩したことも、上司以外は一緒に仕事をしていた人くらいしか気づいてなかったと思います」と、当時を振り返ります。(続く…

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Posted by 木附千晶