子ども時代と人生(5/5)
世界に誇る陸軍大将の文献をしてこうなのですから、いかに日本社会に「幼い頃の人との関わりがその人の一生に影響を与える」という視点が欠落しているのかが分かるような気がします。
つい最近も、それを痛感する記事を読みました。東京板橋区で社員寮管理人であった両親を殺害し、ガス爆発事件(2005年6月)の加害少年(17歳)に関する記事です。
この8月、検察側は、少年に対し、「両親が虐待や不適切な養育をしていたとは到底認められない。いまだに『父親の責任が大きい』と話すなど改悛の情が見受けられない」などとして懲役15年を求刑したのです。
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この事件が起きた当時の報道からは、家族よりもバイクを愛し、少年を“物”のように支配していた暴力的な父親、父親と不和や生活に疲れ「死にたい」とたびたびつぶやいていた母親。そして、そんな父親に怯え、母親の不幸に心を痛めていた哀れな少年の子ども時代が見えてきます。こうした両親の関わりが「不適切な養育ではない」というのなら、「不適切な養育とはいったいどのようなものを指すのか」と聞いてみたくなります。
生まれ落ちた瞬間から、「いつかは両親を殺そう」とか「社会を震撼させる事件を起こそう」などと決意する子どもはいません。暴力で屈服させられた子どもでなければ、「暴力で人を支配しよう」などという発想は生まれようが無く、だれからも助けてもらえない絶望感を経験した子どもでなければ、「社会に復讐しよう」などと思いつくはずはないのです。
誕生後の人(とくに親)との関わり、つまり子ども時代が人格形成に大きな影響を与え、人生を左右するということは明白です。
けれどもそのように考えることは、一般的にはとても難しいようです。
たとえば板橋の事件の後の報道でも、クローズアップされたのは「少年がパソコン好き」だったことや「ホラー映画に関心を持っていた」ことなどでした。
私が『プレジデント Family』(プレジデント社)の「お金に困らない子の育て方」(10月号)という特集の取材を受けたときにも、同様の感想を持ちました。「子どもの問題は親や家族の問題を顕在化させているだけ。問題のある子どもの背景には、必ず“問題のある親”や“問題のある家族”がいる」と話すと、編集者は「どういう親に育てられるかが、子どもの一生にそんなに影響を与えるんですか!」と驚いていました。
「幼い頃からの人との関係性が人格形成に深く影響する」
その事実を、そろそろ社会も認識すべきでしょう。そのうえで「人間の幸福を実現するための社会はどうあるべきか」を真剣に考えなければなりません。
さもなければ、親殺しはますます増え、少年事件は“凶悪化”する一方となるでしょう。
(終わり)