社会の犠牲者(1)
今年は衝撃的な事件が立て続けにおきました。1月15日に実施された大学入学共通テストを巡る事件が、世間に衝撃を与えています。
ひとつは、試験問題を撮影した画像が試験中に外部へ流出した事件です。その後、大阪在住の大学1年生である19歳の女性が香川県警に出頭。女性は、「スマートフォンを上着の袖に隠して試験問題を撮影した」そうです。
報道によると、女性は「東京の大学を目指していたが、受かる自信がなくカンニングした」「成績が上がらず魔が差した」などと話しているそうです。
「事件を起こして死のうと思った」
殺人未遂容疑で逮捕された名古屋市の私立高校2年生(17歳)は、
「医者になるために東大を目指して勉強していたが、成績が1年前から上がらず自信がなくなった」「事件を起こして死のうと思った」と供述しているそうです(『東京新聞』22年1月26日)。
同記事には「勉強はできるはずで成績に悩むようには思えなかった」という同級生のコメントも載っていました。
成績が振るわないというわけではなく、しかも受験まではまだ1年もある、というなかでの犯行でした。
多様性を失った競争社会で
刺殺事件についてとりあげた『東京新聞』(22年1月22日)の記事中で、少年鑑別所で勤務経験のある東京未来大学教授・出口保行さん(犯罪心理学)は、この破壊的な行為について次のように話しています。
「東大などの社会的な評価を意識しすぎて、罪を犯せば捕まるリスクと人生を台無しにするコストを考えることができなくなってしまったのではないか」
確かにメリットとデメリットの計算は合っていません。「他人の評価」など捨ててしまえば、どれだけ楽に生きられただろう、とも感じます。
「多様性」だの「ダイバーシティ」だのという言葉が日常的に用いられて久しくなりましたが、言葉だけが一人歩きし、現実は後退しているように思えます。
どちらの事件の容疑者も、そんな多様性を失い、競争に駆り立てる社会の犠牲者です。