雪の日に思う(2)
311直後には、こうした日本人のきまじめさ、規範意識の高さが、たびたび海外メディアにも取り上げられました。
未曾有の大地震に見舞われ原発事故まで起き、燃料や食糧が不足しても、奪い合うこともパニックを起こすこともなく、だれかを押しのけて暴走することも無く、自分の順番が来るまで整然と並んでみんなと一緒に待つ姿が「美徳である」と語られました。
「美徳」が命取りに
一方で、こうした日本人気質が命取りになったケースもありました。2011年10月2日放送のNHKスペシャル巨大津波「その時ひとはどう動いたか」では、東日本大震災の津波で多くの犠牲者を出した宮城県名取市閖上地区を取材し、震災が発生したときの人々の心理と行動を分析していました。
番組では、多くの人が有効な避難方法を取ることなく亡くなってしまった理由を①正常性バイアス(危険な状況ではないと思いこむ心理)、②愛他行動(自分の命をかえりみず他人の身を守ろうとする行動)、③同調バイアス(判断や行動を周りに合わせようとする心理)の三点から、解き明かそうとしていました。
語られていた心理状態についてはさておき、私は番組が③同調バイアスのエピソードとして示していた人々の次のような行動に衝撃を覚えました。
渋滞にはまっても待ち続けた
閖上地区には、大通り沿いに公民館、中学校、小学校の3つの避難所がありました。それまで、津波はこれらの避難所までは来ないという想定でしたが、あの日、津波はその想定を超え、それぞれの建物の1階部分を完全に飲み込みました。
そして、最も犠牲者が集中していたのは、公民館と中学校の間でした。なぜ、「公民館と中学校の間」だったのか。「公民館は危ない。中学校に移動した方が良い」というあいまいな情報に不安を持った大勢の人々が、車での移動中に津波に巻き込まれたからです。
当時、3カ所の避難所をつなぐ片側一車線の道には、整然と車が並んでいたと言います。迫っている大津波を目撃したある証言者は、渋滞の列に並んでいる車の窓ガラスを叩きながら、「車が動けないなら走ってでも逃げないと。もう間に合わないぞ」と声をかけたと言います。
このときの様子を、番組では次のようにナレーションしていました。
「危機に気付いた一部の人々は裏道を通って逃げました。それは可能でした。しかし、大多数の人が次から次へと渋滞にはまり、じっと待ち続けました」(のうみそのなかみをちょっとだけ)