急がされる子どもたち(8/8)

2019年5月29日

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一方で、市場での自由競争を信奉し、経済活動を最優先とする市民(消費者)づくりのための仕組みづくりも整えられていきました。
「総合的な学習の時間」などを窓口に、企業はキャリア教育や社会貢献(CSR)と称して堂々と学校の正門から出入りできるようになったのです。

そうして、大手金融機関による株式投資などの金融教育、子どもが大好きなジャンクフード会社が行う食育、電話会社による携帯電話の安全な使い方教室・・・挙げればキリがないほど、「市民教育」という名のさまざまな消費者教育が行われるようになりました。

積極的な消費者づくり教育

とくに東京都では盛んで、独自の科目まで創設した学校や区がありました。そのひとつが、「よのなか科」を設置した杉並区立和田中学校。前回のブログで紹介した民間人校長が学習塾と組んで公立中学校に有料の夜間塾を設置した公立中学校。
もうひとつが、経済特区制度を使って、道徳、学活、総合的な学習の時間を統合し社会を生きるために必要なことをしっかり教え込む「市民科」を創設した品川区です。

品川区ではアメリカ発の世界最大の経済教育団体ジュニアアチーブメントのプログラムを使い、大手企業が出資して仮想の街をつくりました。
私が取材に行ったとき、子どもたちはその街で住民登録し、セコムやセブンイレブンの制服を着て、実店舗で扱っている商品や電子機器を使い働いていました。給与の受け渡しや買い物、納税はこの街でだけで通用する電子マネー(エディ)が使われていました。

子どもたちが働く店や企業は銀行から融資を受けているので、融資を早く返して利益を上げるため、社内会議や企業としての戦略会議も行っていました。業務時間外にはショッピングに出かけたり、定期預金を組んだりもしていました。

違和感を持つおとななどいない

仮想の街では教師も、ボランティア参加の保護者も、迷わず子どもが良き消費者として振る舞えるようサポートしていました。おとなとして振る舞う子どもに違和感を覚える人はおらず、接客方法や言葉遣い、書類の扱い方などを懇切ていねいに教えていました。

仮想の街での一日が始まるとき、現場責任者が次のように挨拶をしたことを今も覚えています。

「今日は一日、おとなとして振る舞ってください。はしゃいだり、走ったりしてはいけません。きちんと自分の責任で時計を見て、するべきことをしてください。最高の社員、市(区)民になれるよう頑張って」

こんな教育がまかり通る社会で、子どもが子どもらしく過ごすことは許されません。甘えたり、のんびりしたり、つまづいたりしながら、ゆっくり成長することはあってはならないことです。子どもらしいことは、「いけないこと」であり、今の社会に適応できるようなおとなに早く“してあげる”ことがおとなの責任なのです。

これでは子どもはどんどん忙しくなり、「早くおとなになれ」と急かされるばかりです。

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Posted by 木附千晶