啐啄ーー1年の結びに代えてーー(2/3)
こうした「声なきもの」、「うまく言葉を発することができないもの」の声に耳を澄ませ、相手の思いを形にすることで、見事なものをつくりあげるという思想や行いは、たくさんあります。
自然を征服するのではなく、自然と共に歩み、自然の知恵を活かし、自然をうまく利用することで、豊かさを享受してきた日本には数多く残されています。
穴太衆の教え
これは最近、『歴史秘話ヒストリア』(NHK)という番組で放送していたことの受け売りなのですが、「頑丈な石垣をつくる極意」というのは、「石をけっして削ることなく、自然のままの形でくみ上げること」なんだそうです。
番組では、そうした自然の石を積み上げて行く技術を持つ穴太衆(あのうしゅう)という技術集団に伝わる「穴太衆の教え」を、こう紹介していました。
「石の声を聞き、石の行きたい所へ持って行け」
石の声を聞き分ける職人が積み上げた石垣は実験の結果、コンクリートブロックよりもはるかに強い強度を持ち、新名神高速道路(滋賀県)の一部にも採用されているとか。
規格化された石の脆弱さ
その後、江戸時代になると、石を切ったり、削ったり技術が進み、四角く加工した石を積む技術が発達すると、規格化された石が使われるようになったそうです。
ところが、規格化された石は、扱いやすく簡単に高く積み上げることができる代わりに、時間がたつと「孕みだし」という、石が外側にふくらむ現象が起きてしまうため、定期的な修復作業が必要になるとのこと。
その原因の一つと言われているのは、隙間無く石が積まれてしまっているため、内部に雨水がたまってしまうことだそうです。
一方、自然の石を積み上げた、隙間だらけの安土城の石垣は、430年たった今も孕みだしは起きていません。(続く…)