平和の国はどこにある?(7/8)

2019年5月29日

このシリーズの最初の記事へ ミラー氏によると、ショル家だけでなく自分の命を危険にさらしてまでユダヤ人を救おうとした人たちの生育環境に共通していたのは、「親だからと言って上から命令したり、暴力で子どもを支配するようなことがなかった」ということでした。

そうした人たちの両親は、子どもとよく話し、「なぜそう思うのか」と子どもに問い、子どもが悪いことをしたときには「なぜ悪いのか」をきちんと説明してくれるような人たちだったというのです。

平たく言えば、力で子どもの尊厳をつぶすことなく、子どもの発するメッセージにきちんと耳を傾けてくれるようなおとなとの関係性の中で育った人たちだったということでしょう。

健全な関係が子どもの脳を育てる

子どもにいつでも目を向け、そのニーズをくみ取り、子どもの心に生じる不安や恐怖を取り除いてくれるようなおとなとの関係。いつでもその人のもとへと戻れば、安心でき、慰められ、エネルギーを充電できるようなおとなとの関係。

こうした関係が子どもの心(脳)の健全な発達・・・人間として生きていくために必要な共感能力や前向きに何かにチャレンジする力、自分だけでなく他者の幸せのためにもそのエネルギーを使えるような道徳性や自律性・・・つまり「平和の国」を築くために必要不可欠なさまざまな能力を発達させることは、かねてから言われてきました。

それを理論としてまとめたのは、アタッチメント(愛着)理論の提唱者であるイギリスの精神科医ボウルビィです。

ボウルビィは、戦争孤児の調査から子どもが養育者との間に心から安心できるような絆を結べるかどうかがその後のあらゆる発達に影響を与え、健全な人格形成には健全なアタッチメントの形成が必要であることを示しました。

アタッチメント理論の浸透

実はこのアタッチメント理論は、1990年代以降、ほとんどの心理療法へと浸透し、近年、アメリカで一大ブームを巻き起こしています(『ソマティック心理学』139頁、久保隆司著/春秋社)。

大脳生理学やトラウマの研究、虐待の世代間連鎖の研究、日々の臨床の現場などなど、さまざまな研究・科学・実践が進む中で、ボウルビィが観察研究によって打ち立てた理論が、真実であるということがわかりはじめたのです。

たとえば、子ども時代に不適切な養育を受けたおとなであっても、心理療法を受け、セラピストとの間に健全な絆、安心できる絆を結ぶことができれば、子ども時代に持ち得なかった、人格形成、心(脳)の発達に不可欠な体験を補うことができるというわけです。(続く…

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Posted by 木附千晶