「がんばらなくてもいい!」・・・そんな新しい社会へ(6/8)

2019年5月29日

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たとえば、「毎晩、津波にのみ込まれる夢を見て眠れない」とか「亡くなった母親のことが頭から離れず、涙が止まらない」というのであれば、それは「心の問題」と考えていいかもしれません。

しかし「いつ自宅に戻るか分からない、先の見えない生活が不安で眠れない」とか「放射能を逃れ、仕事のある夫を福島に残して母親と子どもだけで避難した。以来、気分が塞ぎがち」などというケースはどうでしょうか?

これも同じように「心の問題」と考え、カウンセリングを受けたり、投薬治療をすれば済む話なのでしょうか?

ちょっとした疑問

そんなことを考えていたら、ふと、以前にもブログで紹介した作家・雨宮処凜さんの『排除の空気に唾を吐け』(講談社現代新書)のあるページに書いてあったことが浮かびました。

同書(38・39ページ)には、「すべての人が生きづらい時代」として、16分にひとりが自殺していて自殺の原因で最も多いのは『健康問題』で三分の1以上をしめ、その半数近くが「うつ病」であること。全自殺者の58%が無職で20代・30代の死因の1位は自殺であることなどが記されています。

そんなことが書かれた同ページで、雨宮さんは次のような疑問を投げかけています。

「働いても働いても食べていけないワーキングプアで生活が苦しく、それでうつ病になった場合などはどこに分類されるのだろう? また、先に書いた多重債務の女性(借金の返済が明日に迫っていることが引き金になって突然暴れ、救急病棟に運び込まれた/37ページ)がもし自殺してしまったら、それは借金が原因? それとも借金が原因でなった精神障害?」
※( )内は加筆しました。

「心のケア」が不要になることも

今、目の前にいるその方の状態だけを見れば、確かに「うつ病」であったり、「精神障害」であったりするかもしれません。

でも、そもそもの原因は、その人のまったく個人的な「心の問題」と言ってしまっていいのでしょうか。逆に言えば、その人を「心の問題」として治療できれば、根本的に問題を解決したことになるのでしょうか。

私にはとても疑問です。

何しろ、今日、冒頭で示したような「心の問題」として考えられるケースであっても、不安定な生活、孤立した環境などが改善されれば、症状が劇的に改善することもあります。

「現実の問題」が解決したことによって、「心の問題」など無くなってしまうことだってあり得ます。(続く…

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Posted by 木附千晶