本音を言えない子どもたち(3/5)

2021年1月31日

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image070205.jpg教師自身が自分の身を守ることで精一杯

一方で「子どもの声を聞こう」という、今までにない姿勢を打ちだした文部科学省には一定の評価はできます。しかし、本当にそんなことができるのかという疑問は払拭できません。
アンケートなどを回しても、子どもはそこに本心など書いてはくれません。教師や親からの聞き取りもほとんど有効性はないでしょう。子どもはおとなの真意を読み取り、その期待に応えようと演技をする存在だからです。

子どもに本音を語ってもらいたいなら、毎日の生活の中で「このおとなは信頼できる」、「このおとななら何を言っても自分を責めたりしない」と感じ、自由に振る舞える関係性をつくっておく必要があります。
そのためにはまず、子どもの身近にいるおとなたち(教員や親)が、ゆったりと子どもに向き合えるような環境がなければいけません。


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しかし、今の家庭や学校にそのような余裕があるでしょうか。
少なくとも東京都のように、毎年1500人もの教員が辞め、「個性ある学校」づくりという名の数値目標達成に校長が青息吐息になり、副校長が事務作業に追われている状況では難しいでしょう(『週刊金曜日』2007年1月19日号)。

東京都では、単学級が増え、教師が評価され、教師同士が競争させられているなかで、どの教師も孤立。教師がチームワークを取って子どもの問題に向き合うことなど、とてもとてもできなくなっています。
以前は、同じ学年担当や先輩に相談して乗り切った子どもや保護者とのトラブルも、みんなひとりで抱え込まなければいけない状況が生まれているのです。

そのうえ、週指導計画案など書類作成などの事務仕事が増え、職員室にいても各々がパソコンに向かって黙々と仕事に追われるようになってきています。新人教師が自殺するのも当たり前でしょう。
何しろ、仕事に失望して辞めていくベテラン教師を補填するため、大量に採用している新人教師の新任研修は年間300時間を超えています。研修をこなすだけでも大変なのに、職場で相談できる人もいないのでは、耐えられるはずがありません。

職員会議が無くなり、教師は管理職が決めたことをやらされるだけになってしまったことも、教師を疲弊させている一因です。校長権限が強化され、3年で異動させられるようになってしまったため、管理職にもの申すことさえできず、教師が創造的な学級運営を行ったり、授業や子どもとの関わりについて自由に考えたりすることもできなくなってしまったのです。

なかには「不適格教員」のレッテルを貼られながらも、理想の教育を行おうと頑張っている教師もいます。しかし、そのために費やすエネルギーは計り知れないほど大きくなります。
このような環境では、教師自身が自分の身を守ることに精一杯で子どものことなどかまってはいられないでしょう。

「教育の『原点』を取り戻すために」で書きましたが、2005年度に病気休職をした全国の公立小中高教職員は10年間で約3倍の7000人強。そのうち、うつ病などの精神疾患で休職したのは前年度比619人増の4178人で過去最多ということも改めて強調しておきましょう。(続く…

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Posted by 木附千晶