虐待からの回復ーー猫が教えてくれたこと(3)
「そうは言っても、今さら子ども時代をやり直すことなどできない」
「本人が変わる努力をしなければ」
そんな声が聞こえてきそうです。
脳は変化する
たとえば、体罰を長期かつ継続的に受けた人たちの脳は、前頭前野の一部である右前頭前野内側部の容積が平均19.1パーセントも小さくなります。
また暴言にさらされてきた人たちの脳では、スピーチや言語、コミュニケーションに重要な役割を果たす大脳皮質の側頭葉にある「聴覚野」の一部の容積が増加すると言われています(公益社団法人日本心理学会HP「体罰や言葉での虐待が脳の発達に与える影響」)。
こうした虐待が脳に与えるダメージが強調されがちですが、最近の虐待と脳に関する研究では、脳に可逆性、回復力があることも証明されてきています(『児童青年精神医学とその近接領域』57(5)「子ども虐待とケア」)。
猫の脳も変化していた
保護猫たちです。
我が家にやってきた野良猫たちは、みんな最初は警戒心バリバリです。「人なんか信用するか!」「きっと自分を追い出すんだろう!」といきり立っています。
しかし、数ヶ月、長くても数年で、猫は変わっていきます。お腹を出して日向でくつろぎ、人間の膝に乗ってきて「撫でて」とねだります。
間違って人間の足が当たったりしても、「にゃっ!」と不満を表明し、一瞬逃げ去ったりしますが、呼べばすぐに戻ってきます。
「自分がここを追われることはない」と確信し、「周囲は安全だ」と思っているからこその態度です。
日々の関わりが重要
ここで重要なことは、「猫(の脳)は、自然に変化したわけではない」ということです。関わる人間が、「ここは安全だよ」「ここにいていいんだよ」と、日々、示し続けたからこそ、猫は変わったのです。
人間も同じではないでしょうか。
本人がいくら努力しても、本人の力だけではどうにもなりません。幸福や愛情、理解ある環境が用意されて、はじめて可能になることです。
「これから」は変えられる
確かに子ども時代はやり直せませんが、「今、このとき」「これからの未来」は、いくらでも変えていくことができます。
その事実は、私たち支援者にも大きな力になります。