「あおり運転事件」の熱狂(4)
こうした方法は、己の私利私欲を満たすために社会を一定の方向へと動かそうとする人々の“思うつぼ”にはまるだけではありません。危険因子を排除したつもりでいて、実は社会をさらなる危険へとさらしてしまう可能性があります。
過去に逮捕されていた容疑者
「あおり運転事件」について、友人が『FNN PRIME』に載っている、かつて容疑者を乗せたことがあるタクシー運転手の告白の記事を送ってくれました。
容疑者は2018年3月にタクシー運転手を監禁した疑いで京都府警に逮捕されており、このタクシー運転手は、その被害者に当たる方だそうです。
記事によると容疑者は、「高速道路に乗ると、大阪環状線をまず2周するよう指示し、異様な様子を見せ始めた」として、次のようなタクシー運転手の証言を載せています。
「抜いてくる車が幅寄せしてきてるとかこっち見てたとか、妄想でしかないですね。誰も何もしてないので…。自分で110番に電話して、こういうふうなことされている(車に)囲まれている、5台6台。怖いからはよ来て守ってくれとか、そういう言い方するんですね」
自ら110番通報した容疑者は、通り過ぎる車のナンバーをメモしていたものの、警察が急行する前に高速から降りるように指示し、大阪市中央区西心斎橋にあるアメリカ村の三角公園に向かうよう指示。そして「とりあえず12周まわれと。何で12周なのか分からないですけど」(タクシー運転手)と言ったそうです。
約20カ所におよぶ行き先変更を繰り返し、乗車時間は12時間を超えていたとか。
治療につなぐという選択肢も
ここから推測できることは、容疑者が何らかの大きな不安を抱え、過剰な防衛をせずにはいられない状況に長い間、置かれていたということです。
もしかしたら今回の「あおり運転事件」も、容疑者からすれば自身が脅かされるほどの脅威を感じ、駆り立てられるように被害者を追わざるを得ず、身勝手な殴打も「やられる前にやるしかない」という心境だったかもしれません。
推論を重ねることは控えますが、ただひとつ言えることは、「一度、逮捕されていたのなら、そのときに容疑者の置かれた状況や精神状態をきちんと調べ、適切な治療につなげるという選択肢もあったかもしれない」ということです。
大きな悲劇を予防するために
過去に何度も書いていることですが、「なぜ、容疑者は犯罪を犯したのか」をきちんと考え、その背景を知り、容疑者の気持ちに向き合うことは次に起きる大きな事件の予防になります。
「犯罪者のつるし上げと排除にのみ終始することは、何の罪もない人を巻き込むもっと大きな悲劇を招くことにもなり得るという視点が必要だ」と強く主張したいと思います。