『平気でうそをつく人たち』(9/9)
さらに昨今は、学校教育だけでなく家庭でも、と子どもに恐怖心を植え付けて「うそはいけない」と教え込む“しつけ”がブームになっています。
それを反映するのが、『絵本 地獄』(風濤社)の大ブレイクです。そこには、うそをつくなど悪いことをした人が鬼に体を切り刻まれたり、火あぶりや釜ゆでになったりというリアルな地獄の光景が描かれています。
『地獄』は1980年に発行され、これまでは年に2000冊売れるかどうかの商品だったのに、今年に入ってなんと17万部の売り上げです。
子どものしつけに『絵本 地獄』
ブームに火を付けたのは人気漫画家の東村アキコさんが育児漫画『ママはテンパリスト』(4巻)で、「うちの子はこの本のおかげで悪さをしなくなった」と紹介したこと。それがクチコミで広がり、しつけに悩む子育世代を中心にブームになったそうです。
『東京新聞』(2012年4月18日付)には「『子どもが地獄を怖がって、ウソをつかなくなった』『子どもが言うことを聞くようになった』などの声があるという」と紹介されています。
恐怖を煽るやり方は、手っ取り早く言うことを聞かせるには確かに便利です。しかしこうしたやり方、子どもが、今ができる精一杯かつ唯一の方法で発する問題行動や反抗などの「不器用なメッセージ」を潰してしまうことになりかねません。
ひいては不器用な“ことば”を受け入れ、応答してくれるおとなとの関係性の中で、社会を生き抜く力の基礎を育てるという機会を奪い、『平気でうそをつく人々』に利用される人間にしてしまうという、恐ろしい事態にもつながります。
今、必要なのは
今、社会に必要なのは「『うそをつかない』子育てしやすい子ども」をつくることではありません。
人間には二面性があることを理解し、自分を守るためにはときに本音を隠し、私利私欲のために平気でうそをつく厚顔無恥な人々にだまされず、批判的、合理的、全体的にものごとが見られる・・・そんな、きちんとうそとつきあえる人間を育てることなのではないでしょうか。