戦争がなくても平和じゃない(2/11)

2019年5月29日

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日本は、13年連続で年間の自殺者数が3万人を超えるほど、生きていくことが大変な国です。
ここ13年間の自殺者数を合わせると約40万人にも上ります。これはなんと、第二次世界大戦で亡くなった民間人の半分もの数字です。

そして、特定非営利活動法人・自殺対策支援センター・ライフリンクによると、未遂者はその10倍。つまり、毎日1000人もの人が自殺を図っているのが日本の「自殺の現実」だと言います。

さらに同ホームページには、日本の自殺者数は交通事故死者数の5倍以上、自殺死亡率はアメリカの2倍でイギリスの3倍、イラク戦争で亡くなった米兵の10倍とも載っています。

果たして戦争がないからといって、今の日本が平和だと言っていいのでしょうか?


ストレスが高まると虐待者になりやすい

興味深い研究報告があります。日本よりも自殺率の低いイギリスとアメリカで編集された60以上の研究報告書をもとに、虐待の世代間連鎖の発生率を予測したイギリス人のオリバー氏によるものです。

同氏は、子ども時代に虐待を受けた者が親になったときに虐待を行う傾向を報告し、その確率は三分の一に上るとしました。そして、普段は問題ないけれども、精神的ストレスが高まると虐待者となりうる者が三分の一いると見積もりました(『いやされない傷 児童虐待と傷ついていく脳』/Martin H Teicher監修・友田明美著/診断と治療社)。

つまり、多くの人が自殺するような、全自殺者の58%が無職であるような、最も希望に溢れた盛りであるはずの20代・30代の死因1位が自殺であるような、精神的ストレスの高い日本という国で、虐待数が増加するのはいわば当たり前ということです。

子どもをあまり養育しない親

ところで同書は、「母親によく養育されなかったラットは、ストレス脆弱性が生じる上に子どもをあまり養育しない」とも記しています(7ページ)。
このラットの研究結果は、最近、巷を賑わせる子どもをネグレクトや暴力で子どもを殺してしまう親の姿と重なります。

昨今、虐待によって亡くなる0歳児が増えていますが、日本医師会は母親が妊婦健診を受けていないなど、妊娠中に胎児に関心を払わないという事実を指摘しています(『日本経済新聞』2011年2月19日)。

また、子どもを虐待死させてしまった親が、「しつけのつもりだった」と語る場面もよく目にします。

たとえば2010年1月には東京都江戸川区で継父が「素直に謝らないので暴力がエスカレートした。しつけの範疇と思っていた」と小学1年生の男児を死亡させました。そして同年12月には埼玉県でベビーシッターの女性が「しつけの一環で叩いた」と5歳女児を死亡させています。
今年3月には岡山県で高校生の長女の手足を縛って浴室に監禁し、低体温症で死亡させた母親が「いい子に育てるためにしつけていた」と無実を主張しています。

かわいがってもらえなかった者の悲劇

いずれも精神的ストレスの高い社会で、親にきちんとかわいがってもらえないままおとなになってしまった場合の悲劇を感じます。

愛情あふれる養育を受けられなかった彼・彼女たちは、おとはとは違う子どもという無力な存在の特性や特徴に思いをめぐらすことができず、その存在をストレスに感じ、かわいがり方も分からずに、おとなの都合に合わせよることがしつけだと疑わないまま、その幼い命を奪ってしまったのでしょう。(続く…

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Posted by 木附千晶