真夏の怪(1/6)

2019年5月29日

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いつもにも増してこの夏は、不可解なことがいっぱいありました。

たとえば、大阪市のマンションで幼児二人が置き去りにされ、母親が死体遺棄容疑で逮捕された事件。
この事件では、子どもの泣き声を聞いた近所の人々から何度も児童相談所に通報があり、計5回も児童相談所の方が訪問していました。110番通報を受けた警察官も部屋を訪ねていました。

ところが、「訪問時に子どもの声がしなかった」とか「世帯構成が把握できないから」とそのまま帰り、強制的な手段に出ることもないまま、2人の子どもは命を落としました。

政府も自治体も、「児童虐待防止!」と声高に叫んでいるのに、なぜこんなことが起こるのでしょう。

お年寄りの命を奪ったのはだれ?

100歳以上のお年寄りの行方が分からなくなったり、高齢者が熱中症で亡くなる事件も相次ぎました。

生活保護の受給者を減らそうとやっきになっているのですから、仕事がなく、親の年金だけを頼りに生活している中高年が親の死亡届を出さずに生き延びようとしたり、扇風機さえ置けない生活でも我慢しようとするのは、ある意味、当たり前の話です。

それを「詐欺罪だ!」とか「福祉の手からこぼれ落ちた」などと大騒ぎする方が不思議です。

もっと言えば、児童虐待も、老人の行方不明も、「家族が崩壊してしまった」と嘆き、倫理観の欠如の話に持っていくなんてもってのほかです。

子どもや老人を見殺しにしているのは「崩壊した家族」ではなく、「家族がどうにかするべきだ」という自己責任論に他なりません。

もし、倫理観を問うのであれば、切羽詰まった生活をしている一般人ではなく、世界でもまれにみる低い社会保障を平気で続ける政府と、その政府を背後から操っている人々の倫理観こそ問いたいものです。

不思議な就職応援事業

昨今、さかんな就職応援事業も不思議です。

子どもがいる女性向けのマザーズハローワーク、若者向けのジョブ・カフェなど、親しみやすいネーミングの仕事紹介所や、NPO法人などと連携した就職スキル向上プログラムなど、政府は確かに就職を応援するための事業をいくつも展開しています。

でも、現実に目をやれば、今春卒業した大学生の就職率は約60%。前年度に比べて7.6%下回っており、高校生は約16%、中学生は0.4%で、過去最低(2010年8月発表の文部科学省の学校基本調査速報)。30代以上の女性では、非正規雇用から失職という憂き目にあう人がたくさんいます(『東京新聞』8月20日)。

ところが、民主党になっても、こんな労働環境をつくってきた非正規雇用増加の元凶である労働者派遣法の改正案は骨抜きで、菅首相が唱える成長戦略は相変わらず企業利益最優先。

椅子取りゲームで言えば、圧倒的に椅子の数が足りないのです。それなのに、椅子の数を増やすための根本的な努力はせず、「どうやったら椅子に座れるか」という相談窓口を増設したり、椅子取り練習の機会を増やすなんて施策に、いったいどれだけの意味があるのでしょうか。(続く…

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Posted by 木附千晶