地域の再生と地域猫(1/8)

2019年5月29日

最近、「地域が崩壊した」と言われることが多くなりました。
ただ、個人的には「崩壊させられた」という感が強くあります。

たとえば、学校を中心とした地域社会の崩壊について考えてみましょう。

その原因のひとつには、学校選択制や学校統廃合などが進んだことがあります。住んでいる場所から遠いところに通う子どもが増えれば、当然、保護者同士のつながりが薄れます。教師には家庭訪問しにくくなり、通学中の子どもが地域の人から声をかけられることも減ります。教師は、校外で子どもたちが何をしているのか分からなくなります。

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親の学校不信

親の学校不信も深刻です。「学校に任しているだけでは、きちんとした学力がつかない」という不安感と言った方がいいでしょうか。

文部科学省の『子どもの学校外での学習活動に関する実態調査』によると、「学習塾通いが過熱している」と考える保護者は6割にもなり、その理由として「学校だけの学習への不安がある」を挙げています。
また、公立小中学校の家庭で学習塾等にかける補助学習費は年々、過去最高額を更新しています(文部科学省『子どもの学習費調査』。東京都では、低所得層の子どもに塾代を融資する対策も始めました。

つくり出された崩壊

一見、「時代の流れ」のように見えますが、ちゃんと裏があります。
学校選択制や学校統廃合は、国が方向性を示し、各自治体が率先して行ってきたことです。「いじめられた子が他の学校にも行きやすいように」とか「親のニーズに応えられる多様性のある学校づくり」などと言いながら、実際には、自治体の教育費負担を減らし、親が選択しなければいけないような雰囲気をつくってきました。

「学力不振」(学力の二極化)も、同じようにつくりだされてきたものです。
まずは教師を徹底的に管理し、「物言えぬ教師」にするため人事考課制度や数値目標で縛ると同時に事務仕事を激増させて、子どもと向き合う時間を奪いました。

その一方で、「ゆとり教育」を柱とする学習指導要領に改定して公教育費を削減するために平等教育を解体しました。簡単に言うと、それまでの「どんな子どももできるようになるまで」という教育から「できる子には手厚く、それ以外には最低限で」という教育へと移行させたのです。

つい先日発表されたOECD調査によると、日本の公教育費はOECD加盟国中、最下位です。

企業の利益に貢献

こうした政策によって、学習塾や教育産業の利益に貢献し、企業が学校教育に携わる機会を増やしました。

最近では、大手金融機関による金融教育、金融広報中央委員会が行う教師向けのセミナー、東京証券取引所が作成した「株式学習ゲーム」。マクドナルドやカルビーなど子どもが大好きなジャンクフード会社が行う食育にNTTドコモによる携帯電話の安全な使い方の授業・・・。挙げればキリがないほどです。
教育内容をコーディネイトする教育コンサルタント会社も業績を伸ばしています。また、東京都杉並区立和田中(和田中)のように塾と連携した受験対策をする学校も出てきています(「『人と生きる』ことを学ぶ学校」参照)。

上からの地域づくりは無駄

施策として地域を崩壊させ、人と人とのつながりを断っておきながら、一方で「地域の安心安全」として地域ボランティアによる防犯パトロールなどを強化し、住民同士が監視し合う仕組みをつくってきました(「子どもが危ない」参照)。

また、今年度からは50億4千万円をかけた学校支援地域本部事業も始まりました。今年度中に全国1800カ所に学校支援地域本部をつくるのだそうです。
建前は「学校を中心とした地域の再生」「外部人材の登用で教師の負担を減らす」となっていますが、先行して本部づくりが行われてきた和田中では、本部が企業に入ってくるためのトンネルになり、受け皿になってしまっています。

こんな「上からの」方法では絶対に「人と人のつながり」のある地域にはなりません。

次回の予告

どんどんかたい話になってきてしまいました。そろそろ切り上げましょう。
次回からは、足下から地域を再生する猫の話をご紹介したいと思います。(続く…

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Posted by 木附千晶