家族のかたち(2/6)
無邪気な残酷さ
なかでも印象的だったのは「代理母ビジネス」というショート・ストーリーでした。
主人公は依頼者の男性とセックスし、男性の妻に替わって出産するという出産代行業を営むフィリピン女性・ララ。
ララは「貧困から脱するためのビジネス」と自分に言い聞かせながらも、女性としての尊厳を踏みにじられ、母としての人生を手放すことに苦悩します。大金を手にした満足にひたりながらも、「愛する人と結ばれ、子どもを育てたい」と心を引き裂かれるような苦しみを味わいます。
===
そんなララの葛藤をよそに、どこかの大臣よろしくララを「産む機械」のように利用する男性たち。そこには暴力的な男性もいれば、優しい男性もいます。しかし、いずれにせよ彼らは子どもを受け取るとさっさと去っていきます。
そして、ララの子どもを嬉々として我が胸に抱く妻たち。
ララのもとを訪れる依頼者夫婦の無邪気な残酷さ。
それは私に、満杯の乳児院や児童養護施設には目を向けることなく、「血を分けた子ども」に固執する日本社会を連想させました。少子化対策を叫びながら、夫婦別姓や事実婚を否定し、「家族のかたち」にこだわる日本の政治家や識者を思い出させました。(続く…)