家族って?(4/6)

2019年5月29日

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ホームレスとして生きざるを得ない寂しさ。そして孤独・・・。
その現実を痛感したこんなエピソードもあります。

ホームレスや日雇い労働者、路上生活者と呼ばれる方々が多く暮らすある町の繁華街。そこを夜の8時過ぎくらいに、もうかなり長くホームレス支援活動をしているボランティアさんと見回っていたときのことです。
季節は冬。行き倒れになっている方に声をかけたり、救援をするというお仕事でした。

飲み屋はまだ空いているのに、店の中には空席が目立ちました。道端に座り込んで飲んでいる人もほとんどいません。ときに泥酔した人が倒れていたり、かなりいい気分で歌ったり、だれにというわけでなく演説をぶったりしている人はいましたが、町全体としては「もう真夜中」という雰囲気でした。

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ボランティアさんの問い

その静まりかえった様子を見た私が「みなさん、ずいぶん早めに切り上げるんですね」と言うと、ボランティアさんは「彼らは朝が早いですから。日雇い現場の手配氏が来るのは早朝ですよ」と答えました。

その言葉に「なるほど」とは思ったものの、「ホームレスの方にはアルコールのトラブルを抱えている方が多い」と聞いていた私はどこか腑に落ちませんでした。
だから続けて「なんとなく、みなさん夜通し飲んでいらっしゃるようなイメージを持っていました」と軽い気持ちで言いました。
すると、ボランティアさんは足を止め、私の方を向き直り、こう問いかけてきたのです。

「あなたはどんなときにお酒を飲みますか?」

そんなことを聞かれるとはまったく思っていなかった私は、一瞬黙り込んでから、少し考えて次のように答えました。

「だれかともっと親しくなりたいとき・・・たとえば親しい人と楽しい時間を過ごすときとか、友達と騒ぐときとか、同じ職場の人とコミュニケーションをとるときとか・・・」

すると、ベテランさんは静かにこう言ったのです。

「今、あなたが言った関係性のたったひとつだけでも、彼ら(ホームレスの方々)は持っていますか?」

辛いことを忘れるために飲む

「彼らはだれかと親しくなったり、楽しむためにお酒を飲むんじゃない。辛い今を忘れるために飲むんですよ。酔って現実を忘れるための酒なら、短い時間の方がいいでしょう?」

その言葉を聞いたとき、私は金縛りにあったように立ち尽くすしかありませんでした。ただ涙だけが、とめどなくあふれては頬をつたい、落ちていくことを感じながら・・・。
路上や簡易宿泊所で、語りかける人も、待つ人もいない。ひとりぼっちで、ただ今日を生きる彼ら。その圧倒的な孤独感が、一気に襲いかかってきたようでした。

今、振り返れば、それは私が“人と人との関係性の重要性”というものを実感した最初の瞬間だったのかもしれません。(続く…

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Posted by 木附千晶