日本人の法感覚(4)
「市民感覚」を持ち込んだ裁判員制度が始まることでいちばん気になったのは、この10年間、少年による犯罪は激減しているにもかかわらず、「市民感覚」によって厳罰化が続いている少年法への影響でした。
18・19歳の犯罪も増えてはいません。このように少年による犯罪が減っている理由のひとつとして挙げられるのが「要保護性」を重視した少年法の理念によって、再犯が減っているということです。
少年法の理念が失われる
少年法は、家庭環境に恵まれないなど、さまざまな事情でうまく成長・発達することができなかった少年の生き直しを目的につくられた法律です。そのため、罰を与えるのではなく、教育や保護を行って更正を促すことに力点が置かれてきました。
殺人などの重大事件を起こし、おとなと同じように刑事裁判によって処罰するのが相当と考えられる検察官送致(逆送)となったときでも、生育歴がきちんと検討されることも多く、犯罪責任を子どもだけに押しつけることなく、身近なおとなや社会が果たすべき責任や義務も示すことができました。
しかし素人にも分かりやすいスピード感を必要とされる裁判員制度が導入されると「なぜ犯行に至ったのか」(量刑手続き)は関するものは簡略化され、「やったこと」(事実認定手続き)に関する資料が中心にならざるを得ません。
そうなれば、とたとえ少年の事件であっても、生育歴を調べることなどに時間をかけなくなる可能性がありました。
調査官の存在意義も無くなる?
さらにその当時、裁判員制度について取材するなかで気になる話も聞きました。裁判員制度導入に向けてた家庭裁判所の調査官の研修のことです。
調査官の重要な仕事のひとつは、非行を犯した少年などの家庭や学校の環境、生い立ちなどを調査し、裁判官が適切な指導や処遇を考えるうえで参考となる報告書を作成することです。
そんな重要な任務を負う調査官の研修で、非行につながる環境要因等は簡略化し、「刑事処分相当」との意見を「要にして簡潔に」記すよう求められたというのです。匿名を条件として取材を受けてくれたある調査官が話してくれました。
この調査官は「これでは要保護性を守る調査官の専門性も存在意義も失われる」と大きな危惧を持っていました。