いじめ防止対策推進法は子どもを救う?(6/9)
2019年5月29日
前回ご紹介した『教室内(スクール)カースト』(鈴木翔著・光文社新書)という本でも、教師がこうした上下関係をどのように理解しているのか、興味深い考察が記されています(第4章後半から第5章)。
端的に言うと、教師は「自己主張ができて『カリスマ』的な『強い』生徒は『上』で、『やる気がなく』『意思表示しない』『弱い』生徒は『下』であると考え、「教師はこうした生徒間の上下関係を利用して、教室内の秩序を維持しようとしている」(302ページ)そうです。
教師は「能力」の差と理解?
こうした事実を受け、同書の解説を書いている東京大学大学院教育学研究科教授の本田由紀さんはこう指摘しています。
「生徒にとっては『スクールカースト』は逃れがたい『権力』として作用している。他方で、教師にとっては『スクールカースト』における上下関係は『コミュニケーション能力』など生徒の『能力』を基盤として成立しているものと解釈されている」(302ページ)
空疎ないじめ対策推進法
このように子どもたちのいじめ事情を見てきたとき。「いじめなのか違うのかわからない微妙な関係」がスクールカーストと呼ばれて、教室内の日常になってしまっている事実を知ってしまったとき。
政治家たちが胸を張って「今までにない画期的な法律」と語るいじめ対策推進法はとても空疎なものに見えてしまいます。
いくら道徳を強化しても、いくら方針や委員会を策定しても、いじめっ子には毅然とした対応をするよう呼びかけても、目の前で行われていることが「いじめである」と認識できなければ何の手立てを打つこともできません。
子どもの成長・発達の大問題
確かに「スクールカーストはいじめではない」という主張もあります。「『本人がいじめではない』と言っているのだから、それ以上深読みする必要はないではないか」というご指摘もあるでしょう。
しかし、お互いを値踏みしてランク付けし合い、強者が弱者を貶める・・・。そんな関係が子どもたちの間に蔓延しているのだとしたら、それは子どもの全人的な成長・発達を支えるための国際的な約束である子どもの権利条約が唱える「調和の取れた人格」(子どもの権利条約・前文)へと日本の子どもたちが成長・発達できていないという紛れもない証拠です。
それはもう「子どもが人間としての成長が歪んでしまっている」ということなのですから、大きな問題と言っていいのではないでしょうか。(続く…)
Posted by 木附千晶
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