福祉から遠い国(1/8)
『「福祉」が人を殺すとき』(寺久保光良著・あけび書房)
まだバブルが弾ける前、多くの人が「景気は上り調子だ」と信じて疑わなかった1980年代。そんな時代に、各地で福祉につながれずに餓死や自殺が起きていることを綴ったルポルタージュのタイトルです。
同書に登場する北海道札幌市で、3人の子どもを残して餓死したとされる女性の事件については、福祉行政の責任とはまた違った問題があったことが、後になって分かってきましたが(詳しく知りたい方は『ニッポン貧困最前線 ケースワーカーと呼ばれる人々』久田恵著・文藝春秋社をご一読ください)、それを差し引いても日本の福祉行政の問題点がよく分かる一冊です。
出会ったときの衝撃は今も
ちなみに、私が同書を知ったのはまだ学生だったとき。偶然、図書館で目にした本でしたが、このタイトルに出会ったときの衝撃は今も覚えています。
「日本は平和で豊かな国だから、将来は飢えて亡くなる人もいる国の援助をしてみたい」などと寝ぼけたことを考えていた私の目を覚ましてくれた1冊でした。
おそらく、この本に出会わなければ、私がホームレスの方々の支援に関わったり、差別問題について学んだり、福祉行政についての取材をすることはなかったことでしょう。
もしかしたら、ホームレスの方々との出会いによって知った「依存症」というものの存在。そこから生じた「人の心のありよう」についての興味、人格形成や人間の成長・発達に何が必
要なのかという疑問とも出会うことが無かったかもしれません。
『池袋母子 餓死日記』
さらにもうひとつ、豊かさについて、福祉について考えさせられた一冊をご紹介したいと思います。『池袋母子 餓死日記 覚え書き(全文)』(公人の友社編)です。
1996年、東京の豊島区池袋のアパートで77歳の母親が41歳の息子と共に餓死するという事件が報道されました。同書は、その当事者である母親が亡くなるまでの数年間の生活や思うことを書き綴った日記です。
バブルが崩壊し、仕事をめぐる状況は厳しくなったものの、まだまだ日本が「飽食の時代」を享受していた時代、やはりこの事件は世間に大きなショックを与えました。
この春、私はこれらの本を十数年ぶりに手に取り、ページを繰りました。(続く…)