矛盾社会(3/6)

2019年5月29日

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そうそう「こころのケア」で思い出しました。

最近、暗澹たる気持ちになったもののひとつに、さいたま市教育委員会が出したいじめに関する緊急アピールがありました。

アピールは群馬県や千葉県で、いじめを受けていた小中学生の自殺が相次いだことを受けて出されたもの。タイトルは「とても大切なあなたたちへ」で、市内の小中高校と特別支援学校全164校に配布したそうです。

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『読売新聞』(2010年11月22日付)によると、アピール文には、〈1〉嫌いだからといって、いじめるのは人としてやってはいけない〈2〉いじめられていると思っている人は、必ず周りの大人に相談する〈3〉いじめを見たら、勇気をもって周りの大人に知らせる〈4〉苦しいときは、誰でもいいから相談する――との4項目が盛り込まれているそうです。

市教委は24時間対応のいじめ相談窓口の案内とともに、このアピールを子どもたちに徹底させるよう求め、子どもが発する危険サインをチェックするシートも用意し、保護者に渡すよう指示したとのこと。

こんな方法でいじめが防げると信じているとしたら、もうおめでたいとしか言いようがありません。

2006年から何一つかわらないいじめ対策

2006年にも、このブログでいじめ自殺について書きました。

当時、「生まれかわったらディープインパクトの子どもで最強になりたい」という遺書を残して自殺した中学生のことが話題になっていました。その頃も、伊吹文明文部科学大臣(当時)をはじめ、多くの教育関係者が「いじめはいけない」「いじめられている人はまわりにおとなに相談して欲しい」と呼びかけました。

でも、結果はどうだったでしょう。何一つ変わらなかったのではないでしょうか?

当時のブログでも書きましたが、まわりに相談できるようなおとながいるなら、とっくに相談しているはずです。見たこともない大臣や、アピール文を出すだけの教育委員会にわざわざ言われなくても、助けを求めているはずです。
そんなおとながいないからこそ、自殺という選択をしていくのです。

なぜ助けを求められない?

ではなぜ、周囲に助けを求められないのでしょう?

今年5月に国連「子どもの権利委員会」でプレゼンテーションした子どもはこんなふうに言っていました。

「苦しさをだれかに打ち明けたくとも余裕のないおとな達に『ねえ、私辛いよ』なんて言えません。子ども同士でも同じです。私達は『苦しくてあたりまえ』という奇妙な連帯感に縛られていて、へたに声を発すれば嫉妬や恨みを買ってしまうので、自分の本当の心を殺し、お互いに演技を続けています」

チェックシートを配っても・・・

何しろ今、親たちの多くは長時間労働を強いられ、子どもとかかわる物理的・精神的な余裕がほとんどありません。いちばん子どもと関わる時間が長いはずの乳幼児でさえ、長時間保育が当たり前。地域によっては24時間保育を行っているところもあります。

乳幼児でさえそんな調子なのですから、小学生や中学生になった子どものことをつねに気にしていられる親がどのくらいいるのでしょうか。危険サインのチェックシートを配ったとしても、そもそも子どもと向き合う時間そのものが親に欠落しているのです。(続く…

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Posted by 木附千晶