生育歴が無視される裁判員制度(1/9)

2019年5月29日

この5月から、殺人や傷害致死などの重大な事件を争う刑事裁判に裁判員制度が導入されます。導入を進めてきた人たちは、「裁判の迅速化を図る」「国民の意見を裁判に反映させる」「刑事司法を開かれたものにする」など、と言って宣伝していますが、本当にそうなのでしょうか?

導入が決まった後になって、各マスコミはようやく裁判員制度の問題点を指摘するようになりました。それによってようやく国民も、法律の専門家ではない一般人が司法判断を下すことの難しさや、裁判員となった場合の義務、義務に反したときの罰則等について現実的な問題としてとらえられるようになってきました。

昨年3月に日本世論調査会が実施した調査によれば、「裁判員を務めてもよい」と答えた人は26%。対して「裁判員を務めたくない」と答えた人は72%にもおよび、「務めてもよい」の3倍にも達しています。
また、最高裁判所の調査でも、「参加したくない」とする意見(38%)は、「参加してもよい」(11%)の3倍以上になっています。

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なぜ今、裁判員制度導入なのか

多くの国民が「裁判員にはなりたくない」と言っている制度をどうして導入しなければならないのでしょうか。そもそもなぜ、裁判員制度導入の話が持ち上がったのでしょうか。

国民の参加を提言したのは2001年の「司法制度改革審議会意見書ーー21世紀の日本を支える司法制度」でした。

背景には同じ年に成立した小泉内閣が推し進めた、経済活性化、国際競争力強化のための構造改革、規制緩和がありました。

構造改革、規制緩和を軸とする小泉改革は、「それまで政府が国民生活を守るために行ってきたさまざまな規制や縛りをとっぱらい、あらゆるものを市場経済に委ねる社会をつくる」ことを目指しました。
そして国民に対しては、「政府に頼ることなく、自らの意思決定において市場経済に参加し、選んだ結果には自分で責任を取ること」を求めました。

司法においても同様に、「国民が裁判官とともに広くその責任を分担するための仕組みが必要」と考えました。たとえ法律に関する知識がない国民であっても、「国民の健全な社会常識を反映させることができる」として。

それが、「国民の意見を裁判に反映させる」「刑事司法を開かれたものにする」ということだというわけです。

起訴されると有罪率ほぼ100%

では、「司法の迅速化」はどこに行ったのでしょう。

その話をする前に、日本の刑事裁判はなぜ時間がかかるのかという話をしたいと思います。

日本の刑事裁判は、まず警察官と検察官が被疑者を綿密に取り調べるところから始まります。この段階で有罪の証拠を固めてしまうのです。
取り調べの間、被疑者は警察署の中に設置された代用監獄という場所に、ずっと入れられます。「やったかどうか分からない、犯人の疑いがある人」であるだけなのに、最大で23日間日間もここに押し込まれます。

この間、外部との接触はほとんどできません。孤立無援の状態におかれ、「お前がやったんだろう」と責め続けられます。疲れ切った被疑者は「どうにかしてここから逃れたい」と思い、検察側に有利な供述をし始めます。

こうした異常な取り調べが、世界に類を見ない「いったん起訴された場合の有罪率はほぼ100%」という数字を可能にしています。(続く…

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Posted by 木附千晶