愛馬が教えてくれたこと(5/6)
私がセラピーに興味を持ち、心理を学び、子どもや家族問題にかかわるようになったのも愛馬のことがきっかけでした。
故障した愛馬の預け先を探す中で、ハンディキャップを負った子どもを対象にしたホースセラピーを知ったのです。
・・・とは言え、最初は「もっと日本にホースセラピーが定着すれば、行き場のない馬たちの受け入れ先が増えるのでは?」と思っただけ。
でも、馬と接することで変わっていく子どもたち、何より子どもたちが秘めたパワーに驚かされ、その可能性に惹きつけられました。そして、あらゆる人間が生来持って生まれてくるこうしたさまざまな能力の“芽”をつみ取ってしまうものは何なのかと考えるようになり、自分の子ども時代についても考える機会を得ました。
心理学を学ぶことを勧めてくれたのも、ホースセラピーを通して知ったある研究者の方でした。
それから大学院に入り、心理を学ぶまでには、さらに5年もの月日がかかりましたが、私の中で、心理学への興味が沸き、さらには「子どもと家族の問題に取り組む」という、今後、自分がかかわるべき方向性を見つけることができました。
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最後のプレゼント
さらに昨年の暮れ、愛馬がとても素敵な最後のプレゼントをくれました。
昨年11月に、あるテレビ番組で愛馬と乗馬クラブの犬の友情が取り上げられました。脚が変形し、ここ数ヶ月、馬房から出られずにいた愛馬の脚を犬がなめたり、励ましたりしている様子が放映されたのです。
その番組を偶然、見ていたのが、愛馬を生産した牧場のオーナーご夫婦でした。お二人は「26年前にうちの牧場で産まれた馬だ!」とすぐに気づき、遠路わざわざ、乗馬クラブを訪ねてくださったのです。
ずっと馬名を変えていなかったこと(馬はオーナーが変わるたびに名前を変えるのが普通です)、顔の模様が印象深かったことなどもありますが、何より、競走馬らしからぬ(つまり競争に向かない)おっとりした性格だったことが、ご夫婦の印象に残っていたのだとか。
ご夫婦は愛馬をなでながら「まさか26年前にうちで産まれた馬に会えるとは思ってもいなかった」と、とても感激されていたそうです。そして後日、4箱ものリンゴ(うち1箱は人間用)を乗馬クラブに送ってくださいました。
私が乗馬クラブのスタッフからその話を聞いたのは、愛馬が息を引き取ったあとでした。まるで最期に
「出会いをあきらめなければ、人生は変えることができるはず」
ーーーそんなメッセージをみんなに残してくれたかのようです。(続く…)