子どもの権利条約が生きた町(5/6)
中学生の子どもを持ち、小学校で本の読み聞かせボランティアをしている母親は、改革が始まってからの子どもたちの変化をこんなふうに語ります。
「学校を休む子が本当に減りました。うちの子なんて夏休みになると『あ〜あ、学校がないからつまらない』と言ったりするんです。読み聞かせをしていても、年々、子どもたちの集中力が上がっているように思います。こちらがびっくりするような鋭い質問をする子も増えました」
「まだちょっと難しいかな?」と思う本を取り上げても、子どもたちは食い入るようなまなざしで真剣に聞き、読み聞かせが終わった後は、盛んに質問するそうです。
===
「学び合い」の職員室
基準よりも多くの講師が加配されて行われる少人数の「学び合い」の授業は、子どもたちだけでなく教師にもさまざまな変化をもたらしました。
まず、一人ひとりの子どもに向けられる“おとなの目”が増えたことで、子どもとの会話が増えました。そして、複数のクラスに補助役が入ることによって、学年全体で授業の進め方や子どもの反応などを共有し、話し合う必要が生じました。
会議などのかしこまった席を設けるまでもなく、「こんなやり方をしたら子どもたちがみんな分かったよ」「今日○○ちゃんが元気無かったね」など、教師の間で日常的なやりとりが行われるようになり、職員室が「『学び合い』の職員室」へと変化していきました。
やがて教師の間に、私的なことも自由に話したり、相談し合ったりできる関係が出来てきて、自然と「みんなで一緒にやって行こう」「ゆったり子どもと向き合っていこう」という雰囲気が生まれました。
「教師が教える喜びを感じられるようになれば、子どもも学ぶ喜びを感じられるようになっていくのだということを実感しています」(犬山市の小学校教諭)
教師同士が助け合う
職員室での日々の会話から犬山オリジナルの副教本(小学校の国語・算数・理科)がつくられ、各学校では現場の実態に合った評価カードや教材づくりなども始まりました。教師同士が気軽にお互いの授業を見学し合っては、いい点を共有したり、改善点をアドバイスしあったりするなど、助け合う風土も生まれました。
それは、競争的な教育「改革」を行なっている東京都某区で行なわれていた「教師バトル」(どちらの教師の授業が優れているのかを競い合う)とは180度違うものです。
そんな犬山に教員評価制度はありません。その理由を犬山市教育委員会の方はこう説明します。
「評価が処遇に結びつけられると、本来、子どもに向かうべき教師の視線が管理職に向いてしまう。それは子どもにとってマイナスです」(続く…)