日本の子どもに特有のトラウマ?(2)

もうひとつは『子育てに苦しむ母との心理臨床 EMDR療法による複雑性トラウマからの解放』(日本評論社)です。とくに、第2章「子育て困難と複雑性トラウマの理解」と第3章「EMDR療法による支援」を興味深く読みました。

「よい子モード」だけで生きてきたがゆえに

第2章で筆者の大河原美以氏は、「日本人の場合、一次解離の防衛が機能することで、『(怒りを表出しない)よい子』の自我状態を実現することが『適応』にほかならない側面があるのです。そのため、『スモールt(trauma)だけの体験であっても複雑性トラウマ状態に陥りますし、無意識のうちに複数の自我状態を抱えます。しかし、そのまま症状化はしていない『ふつうの人』がたくさん存在します」(103頁)と述べています。

そして、その理由を「親に愛されるために必要な自我状態だけが『よい子モード』となり、親に愛されるという目的のために邪魔な自我状態は遠ざけられる」(101頁)とし、「出産したあと子育て困難に陥る方たちのほとんどが、この状態にあります。出産前は、『よい子モード』だけで安定して生きることが出来ていたのに、出産したら、これまで封印していたモードが無意識のうちに登場して、混乱が生じてしまう状態です」(103頁)。

日本特有の文化が関係

この記述を読み、私は思わず膝を打つ思いでした。何人ものクライアントさんが、頭に浮かびました。

第3章では、その要因として、日本特有の次のような文化が、複雑性トラウマに陥りやすくさせているのではないかと書いています。

「日本人の場合、基本的に『怒りを表明することは控えるべきこと』という文化のもとで生きているので、つらい経験はたやすく封印され、一次解離(正常な防衛としての解離)のレベルであっても、自我状態がその不快な感情を抱え込んでしまうのではないか」(146頁)

複雑性PTSDとは

ここで、複雑性PTSDについても簡単に記しておきましょう。複雑性PTSDは、 2018年に世界保健機関(WHO) の改訂版国際疾病基準 (ICD-11) で採用されたばかりの比較的新しい概念です。

PTSD同様、衝撃的な経験・体験により発症し、フラッシュバックや悪夢などの従来の特徴に加え、①感情制御の困難、 ② 自分への無価値観、 ③ 人間関係構築の困難などがあります。

PTSD が事故や自然災害のような単回性の外的要因によって起こるのに対し、 複雑性PTSDは長期間にわたり、 繰り返し衝撃的な経験・体験にさらされることによって引き起こされます。
たとえば、 本来、最も愛してくれるはずの親による虐待や、いちばん安心できる場所であるまずの家庭で体験する ACE(逆境的小児期体験) などが関連するでしょう。

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Posted by 木附千晶