急がされる子どもたち(6/8)
1998年に行われた子どもの権利条約に基づく第一回目の国連「子どもの権利委員会」による日本政府報告審査のとき、すでに「過度に競争的な教育制度が子どもの発達を歪めている」という衝撃的な勧告を受けた日本。
残念ながら、この国連からの指摘を真摯に受け止め、根本的に改められることはありませんでした。
いえ、それどころか前回のブログに書いた教育改革国民会議(2000年)以降、「国際競争に打ち勝つ人材育成」を全面に押し出した教育制度、あらゆる領域を金儲けの対象とする聖域無き構造改革が子どもと、子どもの周りにいるおとなたちを襲いました。
グローバル化する世界経済のなかで格差社会が到来し、だれもが競争のレースに乗せられる時代が幕を開け、それに合わせた教育が始まったのです。
表面上はあいかわらず「ゆとり教育」という名前を冠し、競争とは相容れない教育を行っているという顔を装いながら・・・。
学力の二極化と学習塾の台頭
しかし、その本質は「できる子には手厚く、それ以外には最低限」の教育でした。いくら教科書を薄くし、義務教育期間中に学ぶ内容を少なくしても、受験のあり方が変わらなければ、学校で教えてくれない知識をどこかで習得しなければなりません。
しかも「ゆとり教育」の内容は、子どもの発達や状況を無視したものでした。そのせいでたとえば数字の概念があやふやになったり、実体験として学ぶ機会が減ってしまったりして、学校に行くだけでは学力が付けられない子どもが増えたのです。
学力は二極化し、「学校に任せておくだけでは不十分」という不安に駆られた親たちは、教育産業や学習塾へと走りました。経済的に苦しく、学習塾代が払えない家庭の子ども向けに、NPO法人や自治体が無料の学習塾を用意しはじめたのも、2000年代に入った頃からでした。
公教育の根幹を揺るがす大問題
全国に先駆けて低所得層の子どもに塾代を融資することをはじめた東京都では、リクルート出身の民間人校長も誕生しました。
このブログの「『人と生きる』ことを学ぶ学校(5)」でもご紹介したように、民間人が校長となった東京都杉並区立和田中学校が学習塾・サピックスと提携して有料の夜間授業「夜スペシャル」をはじめたことは、当時、かなりのニュースになりました。
まさに公教育の根幹を揺るがす大問題。ところが世間では批判的な話はほとんど聞かれませんでした。それどころか歓迎する声の方が多く、『朝日新聞』(2008年1月28日)が「天声人語」で、この夜スペシャルについて「塾に行けない子への福音と考えたい」と述べたことはあまりにも有名です。(続く…)